289 流星
「自分が自分で無くなるだと?どう言う意味だ?」
「カイト様は復讐を誓った私に力を与えて下さったのだ…貴様を地獄に落とす力をな!!」
ゲルトが自らの上着を力任せに引きちぎるとそこには見覚えのある石が胸に埋め込まれていた。石はゲルトの心臓の動きに合わせて怪しい光を放っている。
「お前…偽核を使ったのか?」
今まで何度か偽核を自らの体に埋め込んだ者と戦った事がある。パフィン村のエルフ達を連れ去ろうとした女魔族にエナハイ侯爵家の父子…あの石は埋め込まれた者の力を飛躍的に上昇させる。
「そうだ、カイト様に懇願し偽核を埋め込んで頂いたのだ」
「確かにお前は以前より強くなった。だが偽核の力を使ったにしては微妙だな」
「当たり前だ。私はまだ偽核の力を解放していない…貴様への憎しみで暴走するのは目に見えていたからな」
ゲルトに埋め込まれた偽核の光が強くなる。気味の悪い光だ。見ているだけで不吉な予感がする。
「だが貴様を前にした今この力を解放する事になんの躊躇もない!」
更に偽核の光は輝きを増し何本もの光の筋を作り出す。光の筋は触手の様にゲルトの身体を侵食していった。
「グッ!グァァァッ!力が!力が溢れてくる!素晴らしい!これなら貴様に勝てる!」
「厄介な事になったな…元々楽に勝てる相手じゃないのに更に偽核の力を得たか…」
「フーッ…フーッ…憎い…ジー様の命を奪った貴様が憎い…楽には殺さんぞ…ユイトオォォォォォ!」
ゲルトの咆哮が空洞の空気を震わせる。先程までと違いヤツの瞳からは知性が感じられない。
「俺だって楽に殺されてやるつもりはないさ。掛かって来いよ、吠えてるだけじゃ俺は倒せないぜ?」
「ぬかせ!我が槍で穴だらけにしてやる!」
ゲルトが槍を構え流星撃の発動体勢をとる。この技の効果は単純明確、自らの能力値を大幅に増加させての突撃だ。
「うぉっ!?思った以上にパワーアップしているな、こんなの掠っただけで致命傷だぞ」
発動前の体勢からゲルトの軌道を予測し流星撃を避ける。目で追えない速度でゲルトは俺のいた空間を切り裂いて闇の彼方へと消えていった。
「!?またか!?2発目の流星撃を放つにしても早過ぎるぞ!?」
MMORPGでは流星撃を連続で放てない様にクールタイムが長めに設定されていた。この世界でも以前ゲルトと戦った時はこんなに短いスパンで技を撃て無かった筈だ。
「まだまだぁぁぁっ!貴様を屠るまで我が槍は止まらんぞ!」
間髪入れず必殺の一撃を放ってくるゲルト。偽核の力は俺の想像以上の力をヤツに与えたみたいだ。