288 仇敵
偽神が闘争を望むならば自分達がその駒になる事を厭わないと言う魔族のゲルト。その言葉は本心からの様だ。
「仲間の命?それが何だと言うのですか?これ以上貴方と問答をしても仕方ありません。念の為に聞いておきますが私達を黙ってここを通してはもらえませんか?今は貴方達と戦うつもりはないのです」
「断る、このままお前に邪龍を復活させられたら世界が滅茶苦茶にされてしまう。それにゲルトのヤツは大人しくしているつもりなんて無いみたいだぞ?」
「当たり前だ!どれだけ貴様の心臓を貫く事を待ち望んだ事か…ジー様の仇!ここで晴らさせてもらう!」
言うが早いからゲルトが流星の槍を構え俺に突撃して来る。流星の槍の能力流星撃だ。
「俺も大人しくやられてやる訳にはいかなくてな!コイツは俺が相手をする!皆はもう1人の方を頼んだ!」
「クッ…我が流星の槍の一撃を凌ぐか…」
「コイツ…明らかに以前よりも強くなっているな、舐めて掛かるのは危険だ」
ゲルトの一撃を腕に嵌めた神甲アイギスで受け止める。しかしゲルトの突撃は止まらない。俺はゲルトに押し出される様に皆と分断されてしまった。
「オォォォォォッ!このまま壁に叩き付けてくれる!」
気合を入れる声と共にゲルトの速度が増す。このままでは空洞の壁に叩きつけられてぺしゃんこにされてしまう。
「そうはさせるか!俺だって以前より強くなった事を教えてやるよ!」
「何!?確かお前は空を飛べなかった筈だ!?うわぁぁぁっ!」
神靴ヘルメスの力で空へと逃れた俺をゲルトが驚いた顔で見つめてくる。以前戦ったは空中を飛び回るコイツに手こずらされたからな、良いザマだ。ゲルトは止まる事が出来ずに1人で空洞の岩壁へと激突する。
「マヌケめ、強くなったのは自分だけだと思っていたのか?まぁこの位で倒れてくれるとは思えないけど…」
ゲルトが岩壁に激突した場所から土煙があがる。サクヤから離れたせいで辺りが暗く良く確認できない。俺は今の内にアイテムバッグから取り出した大量の松明に火を付け適当に周囲へとばら撒いた。
「おい、いつまで隙を伺ってるんだ?俺が油断するのを待っているんだろうがムダだぞ」
「チッ…背中を見せた瞬間貫いてやろうと思っていたのだがな。お見通しだったか」
土煙の中からゲルトが姿を現す。やはりダメージを負った様子はない。
「お前が仇討ちの為にそんな姑息な手段を取るとは意外だったけどな。俺が言えた義理じゃないがもっと正々堂々としたヤツだと思っていたよ」
「黙れ!私は貴様を殺す為ならどんな事でもすると誓ったのだ!そう…例え自分が自分で無くなるとしてもな!」