270 2人を追って
「おーい!レイ!アン!聞こえてるなら返事をしてくれ!」
真夜中のドラゴンロックに俺の叫び声が木霊する。モンスターが寄ってくるかも知れないが今はも2人を探し出す事が最優先事項だ。多少の危険は目を瞑るしかない。
「ユイト!ちょっとコレを見てよ!」
「何か見つけたのかルメス?」
2人の足跡を辿っていたルメスが何かを見つけて手招きをする。流石は元密偵、こう言った事に慣れている様だ。
「コレは…血?2人は怪我をしているのか?」
「ううん、コレは多分モンスターの血だと思う。2人はこの血の跡を追いかけたみたいだね」
「2人は野営地を離れて手負いのモンスターを追いかけたって言うのか?一体何の為に…」
あの2人もこのドラゴンロックがどれだけ危険な場所かは十分に理解している筈だ。それなのに安全な野営地を離れモンスターを追跡するなんて何が起こったのだろう。
「理由は2人を助けだしてから直接聞こうよ。やっぱり2人は山の上の方へ向かったみたいだね」
「そうだな、よし…ルメスはこの血痕を追ってくれきっとこの先に2人はいる。頼んだぞ」
今のところ手掛かりはこの血痕しかない。この跡を追いかけてみよう。
「ユイト君。周りの様子がおかしい、この辺りにモンスター達の気配を感じないんだ」
「私も感じないわ。まるで何かを恐れている様にモンスター達がこの血痕から離れているの」
「気を引き締めよう。あの2人が何か厄介な事に首を突っ込んだのは間違いなさそうだ。どんな事が起こるかわからない」
血痕を辿らり山を登るにつれて違和感が強くなってくる。昨日までならこれだけの距離を移動したら間違いなくモンスターの襲撃を受けていた。それなのに今日はモンスターの気配すら感じない。
「結構野営地から離れてしまったな。全くあの2人は…」
「何!?この感じは…気をつけて!何だか凄く嫌な気配を感じるわ…禍々しい気配よ!」
突然テミスが声をあげた。禍々しい気配…どうやら2人が向かった先が発信源の様だ。
「僕にも分かる、これはモンスターの気配とはまた別のモノだ。異質…あまりにも邪悪すぎる」
「ユイト、虫や鳥が何かを恐れて逃げてきてる。多分2人が言ったイヤな気配の何かを恐れてるんだと思う…」
血痕を辿るにつれて禍々しい気配は強くなっていく。ここまでくれば俺にもその気配を感じる事ができる。全身に纏わりつく様な不快さ、今までに感じた事の無い感覚だ。
「狩猟神の耳飾りが反応しないって事はただちに危険が有るって事では無いんだろうけど…こりゃ明らかに異常だな」
「まるで大勢の怨念が漂っているみたいな感覚ね…ユイト!アレを見て頂戴!」
テミスの指さす方を見ると近く木々の間から火柱が上がっていた。あの火柱には見覚え有る、ドラゴンのブレスによる火柱だ。