269 竜と悪魔
扉の中から現れた漆黒の巨人がドラゴンへと歩み寄っていきます。ドラゴンも巨人へと顔を向けいつでも火炎を吐ける態勢です。
「レイ!本当に大丈夫だったのね!?安心したわ」
「えぇ、痛みは有りますが動けない程では有りません。それよりあの巨人は一体…?」
いつの間にか側に来たアンが私の身体を心配してくれました。扉が開き身動きが取れる様になった様です。
「あれは私の魔法で召喚した悪魔よ。正真正銘のね」
「悪魔!?それって伝説や伝承に出てくるだけの存在ではなかったのですか?」
「悪魔は確かに実在しているわ。ただ私達とは別の世界の存在だから私の魔法で無理矢理この世界に来てもらったの」
別の世界とは私達が地獄や冥界と呼んでいる世界の事でしょうか。とにかくあの巨人、悪魔は私達に仇なす存在では無い様で一安心です。
「アイツの力ならレッドドラゴンだって倒す事が出来るわ。問題は私の魔力がどこまで保つかって事ね…」
「どういう意味ですの?アンの魔力と悪魔にどんな関係があると言うのですか?」
「あの悪魔は魔力を与える事を条件に私の命令を聞いてるのよ。もし私の魔力が切れたら….その時アイツは私の命を奪い自分の世界に帰って行くでしょうね」
「何でそんな大事な事を黙ってましたの!?ドラゴンを倒しても魔力が切れればアンが死ぬって事ではありませんか!?」
アンの顔色は悪く額には汗を浮かべています。既にかなり魔力を消耗しているに違いありません。
「レイ、アンタは今から野営地に逃げなさい。今ならドラゴンもこっちに注目してないからきっと逃げられるわ」
苦しい筈なのに無理矢理笑顔を作ったアンが私に逃げろと言ってきました。確かに今ならダメージを負った私でも出来るかもしれません…
「お断りしますわ。もしここで私だけ逃げきれたとしても貴女はどうしますの?仲間の命を犠牲にして助かっても私は一生自分を許せなくなってしまいます」
「アンタって本当にバカね。自分だけなら確実に助かる事が出来るって言うのに…」
「2人で助からなければ意味がありません。要はアンの魔力が切れるまでにあのドラゴンを倒せれば問題無いのでしょう?」
「それはそうだけど…アンタまさかその身体でまだ戦うつもり?」
左脚を怪我したせいで機動力は無くなりましたが私はまだまだ戦えます。今の私でも出来る事はある筈です。
「アンが命を賭けているのですもの。私だって命を賭けますわ」
「…もう何も言わないわ。こうなれば2人とも死ぬか2人とも助かるかの2つに1つよ」