267 冥界の扉
「早く早く早く!早く開きなさいのこのバカ扉!」
私はデビルサモンによって出現した扉を睨みつけながら怒鳴り声をあげる。こんな事しても意味が無い事は百も承知だけど焦る気持ちを抑える事が出来なかった。
「レッドドラゴン相手にレイがいつまで持つか分からないわ。折角仲良くなれたのに死なせる訳にはいかないのに…」
身動きが取れない私を尻目にレイがレッドドラゴンと激闘を繰り広げる。巨大な敵を翻弄する様に動き回り隙を見て細剣から光魔法を放っている、その姿は舞を舞う踊り子の様だ。
「やるわねレイの奴…私じゃあんな戦い方は絶対に無理ね」
ひらひらとドラゴンの攻撃を避け攻撃を仕掛けるレイは一見優勢の様だがその実は違う。レイの攻撃は全てその強靭な鱗に弾かれているのだ。
「うわっ!凄い炎…あんなのまともに食らったら火傷どころじゃ済まないわ」
レッドドラゴンの吐いた火炎をレイがギリギリで躱した。幾ら攻撃を受ける事ができる敵に対してレイは一撃でも攻撃が当たればそれで終わり。これがドラゴンと人の戦い、2つの種族には圧倒的な差がある事をまざまざと見せつけられる。
「もう少し待ってて頂戴。この扉が開けばアンタだけは確実に助かる事は出来るからさ」
半分程開いた冥界の扉を見つめながら呟く。実はこの魔法を実戦で使うのは今回が初めてなのだ。
「問題は扉が開いた後ね…今の私の魔力でどれくらいアイツが満足してくれるかしら?」
レイには伝えてないがこのデビルサモンの魔法には発動までに時間が掛かる他にもう一つ致命的な欠点がある。その事をレイが知れば私を気絶させてでも魔法の発動を阻止しただろう。
「くっ…まだ扉も開いて無いってのにこれ程魔力を喰われるなんて。燃費が悪いにも限度があるわよ」
全身を倦怠感が襲う。急激に魔力を使った時特有の感覚だ。このまま眠ってしまいたい衝動に駆られるがそうはいかない。そんな事をすればレイも私も仲良くドラゴンの餌になってしまう。
「グォォォォン…」
「やっと来たわね。もう少しで扉から出してあげるから待ってなさいよ」
扉の奥から低い唸り声の様な音が聞こえて来た。聴く者の心臓を鷲掴みにする生物としての本能に訴えかける様な禍々しい声だ。
「良い?扉が開いたらあのドラゴンにアンタの力を見せつけてやりなさい。間違ってもレイに攻撃するんじゃないわよ」
果たしてコイツは私の言っている事を理解しているのだろうか?少なくとも私のの魔力が切れるまでは命令に従ってくれのは分かっているんだけど。
「オォォォォォン…」
8割程開いた扉の奥に何者かの暗く輝く眼が2つ並ぶ。これが今私が扱える最強魔法の効果。闇そのものを具現化した悪魔の召喚だ。




