266 レッドドラゴン
レッドドラゴンは完全に私達を捕捉した様です。四本の脚で大地を揺らしながら迷い無くこちらへ近づいてきます。
「凄い迫力ですわね…これが…ドラゴン…」
「呆けてる暇は無いわよ!先手必勝!ナイトメアボム!」
アンの放った闇魔法がレッドドラゴンへと着弾します。この魔法はオウル師匠との戦いでトロンが使っていた魔法と同じ物でしょうか?
「やった…!訳ないわよね。同じ魔法でもトロン姉さんの様に威力が出せないわ…」
「凹むのは後にして下さい!来ますわよ!」
無数に襲いかかったアンの魔法は確実にレッドドラゴンに命中しました。しかし全く動じた気配は無く着実に私達との距離を詰めてきます。
「私が前にでますわ!アンは援護をお願いします!」
「待って!少し試してみたい事があるの。少しの間アイツの注意を引きつけてくれない?」
「試してみたい事…ですか?なんだか分から無いけど注意を引くくらいなら任せてください」
「上手くいけばアイツを倒せる筈だから。頼んだわよ!レイ!」
ほんの数時間前まであれ程嫌いだったアンと共に戦う事になるなんて不思議な気分です。
「貴方の相手は私ですわ!喰らいなさい!ライトニングレイ!」
鞘から抜いた細剣の先端へと意識を集中します。私の得意属性である光魔法。ライトニングレイはその中でも私が最も自信が有る魔法です。
「グルゥ?…グラァァァァッ!!」
「全く効いた様子はありませんわね。出来れば視覚を潰したかったのですが流石に無理でしたか…」
眼球を狙い放った魔法でしたが少し軌道がズレた様です。しかしこれでレッドドラゴンの注意は私に引きつける事が出来ました。
「北の門に東の門。その中間に出づる冥界の門よ。我が声に応え扉を開け!デビルサモン!」
「アン!?何ですのその魔法は…?」
背後から禍々しい気配を感じ振り返るとそこには漆黒に染まる巨大な門が姿を現していました。
「これが私のとっておきよ。まだ全然使いこなせて無くて扉が開くまで全く身動きが取れなくなっちゃうんだけどね。あはは…」
「あはは…じゃありませんわ!この状況で身動きが取れなくなるなんて何を考えてますの!?」
「だからその間はアンタに私の命を預けるわ。この扉を開く事が出来たらきっとドラゴンだって倒す事ができると思うの」
あっけらかんとした顔でアンがとんでもない事を言い放ちます。レッドドラゴンの注意がアンに向けば終わり。アンは間違いなく食い殺されてしまいます。
「責任重大ですわね。絶対に貴女を守り抜いてみせます!」
私は細剣を構え迫り来るレッドドラゴンへと走り出しました。