263 似た者同士
「血の跡はこっちに続いてるわね、まだ新しいわ。あのエテ公は近いわよ」
地面についた血の跡を見ながらアンが話し掛けてきました。夜中だと言うのに良くこんな些細な痕跡を追えるものです。
「わかりましたわ。その…本当にありがとうございます、私だけではとてもこんな事できませんでしたわ」
「私達魔族は夜目が効くからね。にしてもアンタにお礼を言われるなんて気持ち悪いわ、やめて頂戴」
本当に嫌な女です、折角人が素直にお礼を言ったのにこの反応。絶対にアンと仲良くなるなんて事はないでしょう。
「本当に素直じゃありませんわね。そんなに私の事が嫌いなら何故ペンダントを取り返すのに協力をしてくれるのですか?」
「そ、それはなんだっていいでしょ!アンタがメソメソしてたら私の調子が狂うっていうか…そう!これは自分の為よ、別にアンタの為じゃないんだからね!」
アンの顔が紅く染まります。確かユイトがアンの様に素直になれない人の事をツンデレとか言っていたけどこの様な事をそう呼ぶのでしょうか?
「ふふ…なんとなく貴女の事がわかってきましたわ。本当にありがとうね、アン」
「ふん!これは貸しよ。この貸しはいつか絶対返してもらうんだから。忘れないでよね!」
思えば今まで私にここまで自分の感情をぶつけてくる相手なんていませんでした。私の身分を知ると相手が遠慮してくるからです。
「アンタを見てるとむしゃくしゃしてくるのよね…どれだけ頑張ってもユイトやシグマみたいな化け物に追いつける筈ないじゃない。それなのに毎晩毎晩1人で特訓なんかしちゃってバカみたい」
「それはアンだって同じじゃありませんか?貴女だって毎晩1人で特訓しているのを私が気づいて無いとでも思ってまして?」
「なっ!?アンタがなんでその事知ってるのよ!?覗き見でもしてたって言うの?」
「あれだけ派手に魔法を使っていたら嫌でも気づきますわ。まさかアレで隠しているつもりだったなんてお粗末にも程がありましてよ」
私の言葉に腹を立てたアンが睨みつけてきますが私も退く訳にはいきません。夜の静寂の中無言の2人の視線がぶつかり合い睨めっこの様な状況になりました。
「ぶっ…あはははは!そりゃそうよね。あれだけ派手にやって気づかれない方がおかしいわ。アンタの言う通りよ」
「フフフフフ、そうですわよ。最初はモンスターの襲撃かと思って大変焦りましたわ」
「はぁ~、そんな事にも気づけなかったなんて私ったら本当に未熟だわ…」
「未熟なのは私も同じですわ。なんだか私達って似た者同士だと思いませんか?」