261 王女の葛藤
「せいっ!はぁっ!あのバカ魔族!これで終わりですわ!ライトニングスティング!!」
私の放った渾身の一撃が敵に見立てた木に命中する。憎たらしいアンの顔を思い浮かべながら放ったのが良かった様で明らかに普段よりも威力の有る技が放てました。
「はぁ…はぁ…でもこの程度では到底ユイトに敵いませんわ…」
最近日課になった深夜の特訓。きっかけはユイトとの出会いでした。王立学院では私に敵う生徒はいませんでしたが彼に出会い自分が井の中の蛙だった事を思い知らさせれました。私と歳も同じくらいなのに最強と呼ばれるシグマ師匠と互角に渡り合える実力の持ち主。彼を見ていると自分の未熟さが浮き彫りになります。
「このままじゃ学院を抜け出して旅に出た意味がありませんわ…少しでも師匠達やユイトに追いつきませんと」
グランズ王国の王女として生を受けた私は今まで何一つ不自由する事なく生きてきました。それは全て国民のおかげ、その事は物心ついた頃から毎日の様に父上に聞かされてきました。
「国民をモンスターの脅威から守る為に強くなりたいと無理矢理師匠達に付いて来ましたが…私には無理な事なのでしょうか…母上…」
母上の形見のロケットペンダントを開け語りかけますが精巧に描かれた母上の絵は何も答えてくれません。その時近くの茂みから物音が聞こえました。
「何者!?」
「シャアアアッ!」
茂みから猿の様なモンスターが襲いかかってきました。いつの間にかルナの結界の外へと出てしまっていた様です、迂闊でした。
「この程度のモンスター私の敵ではありませんわ!」
「ギャアアアア!?」
モンスターが私に襲いかかる瞬間カウンターの様に腰の細剣を振り抜きます。
「手応えは有ったようですが…深傷は与えられてませんわね…!?無い!母上のペンダントが!」
未熟でした。私の攻撃はモンスターにダメージを与えた様ですが敵はすれ違い様に母上のペンダントを引きちぎり持ち去ったのです。
「待ちなさい!それは私の大切な物ですの!返して下さい!」
モンスターの逃げて行った方へ叫びますが勿論返事などありません。
「お願い…返して下さい…」
自分の未熟さから大切な物を失ってしまいました。情けなさから涙が出そうになります。
「全く…見てらんないわね。バカにしようと出てきたのにそんな姿見せられたら調子狂うじゃない」
人の気配を感じ慌てて溢れそうな涙を拭うとあの女がいました。最悪です、こんな姿を一番見られたくない相手に見られてしまいました。