259 不仲
俺の呟きが2人の耳に入ってしまった。コレは良くない状況だ。今の2人なら本当に殴り合いを始めてもおかしくない。
「2人とも落ち着けよ。今は仲間割れしてる場合じゃない事は分かるだろ?仲良くしろとは言わないけど少しは冷静になってくれないか?」
あのオウルさんですら言い争いをする2人の前では形無しだった。素直に俺の言う事を聞いてくれるとは思えないが何もしないよりはマシだ。
「そうですわね…確かにユイトの言う通りですわ。ただでさえ何が起こるか判らない危険地帯にいる事を忘れてましたわ」
「ふん!この女と仲良くするつもりは無いけど他の皆に迷惑をかける訳にもいかないわね。ゴメン、折角の食事なのに雰囲気を台無しにしてしまったわ」
「あ、あぁ、分かってくれればそれで良いんだ。兎に角喧嘩は控えてくれると助かる」
何とか殴り合いの喧嘩は回避出来た。自分達の喧嘩で他の皆に迷惑を掛けていると気付き渋々我慢したといった感じだ。その後なんとか殴り合いを思い留まった2人は無言で夕飯を済ませ別々にどこかへと行ってしまった。
「やるじゃないかユイト君。あの2人を宥めるなんて大したモノだ、僕じゃどうしようもなかった」
「運が良かっただけですよ。それにしてもあの2人の仲はどうにかしないといけませんね…」
少なくともこの先レイとアンはドラゴンロックを下山するまでは行動を共にする事になる。今回はギリギリの所で矛を収めさせる事に成功したが次はわからない。
「俺の見た感じあの2人はなんつーか似た者同士なんだよなぁ。ユイト、多分あの2人の不仲の原因はお前さんが関係してるんだと思うぜ?」
「俺が原因…?どう言う意味でしょう?」
「あの2人は自分の実力にそれなりの自信を持ってた筈だ。それが歳も近いお前さんと戦いコテンパンにやられちまった。お互いの姿を見てると燻ってる自分自信を見ている様でついイライラするんじゃ無ぇかと思ってな」
「レイはともかくアンは勝手に転んで気を失っただけですよ?」
「それでもここしばらくモンスターと戦うユイトを見て自分との実力差には気づいてるだろうよ。ともかくあの2人はお互いに八つ当たりしてる感じがするんだよなぁ….」
この人は一見豪快で何も考えて無い様に思えるがそれは大きな間違いだった事に最近気づいた。モンスターとの戦闘の際に一番仲間の動きに気を配っているのはシグマさんだ。長年の冒険者生活で仲間が何を思っているのか手に取る様に分かるのだろう。
「あぁいったタイプは何かきっかけが有れば急に仲良くなる事がある。暫くは暖かく見守ってやるとしようぜ」