258 とある問題
「…シグマさん。ちょっとアレどうにかなりませんかね?」
「なんで俺に話を振ってくるんだ?悪ぃけど俺の力じゃどうにもなんねぇ。つーか割って入る勇気が無ぇ」
最強の男が匙を投げた。今俺達には些細な問題がある。目の前で言い争っている2人の仲の悪さだ。
「だ~か~ら!なんで私のシチューにだけ肉が入って無いのよ!アンタが皆の分をよそう時にワザと私の分にだけ肉を入れなかったんでしょ!?」
「しつこいですわね!貴女の分に肉が入って無かったのはただの偶然ですわ!大体どの椀を誰が取るかなんて分かる訳ないでしょう!」
「まぁまぁ、2人とも落ちついてよ。まだお代わりは沢山あるんだからアンちゃんは肉を取ってくるといい」
俺達がヘタレてしまって近寄る事も出来なかったレイとアンの喧嘩にオウルさんが割って入った。流石は妻子持ちだな。
「アンタは黙っててよ!私は別にシチューに肉が無かった事なんてどうでもいいの!こんな姑息な意地悪をするこの女が気に入らないのよ!」
「オウル師匠も私がアンに意地悪をしたと思ってますの!?酷いですわ…私がそんな事をする女と思われていたなんて…」
「ハハハ…あっ!シークにご飯をあげるの忘れてた!急いで用意しなきゃ」
あっ、オウルさんが逃げた。あの人でもどうしようも無かったか。でも2人をこのままにしておくのもマズイよな…
「あの…妹がすみません。普段はあんな子じゃ無いんですけどどうもレイちゃんとは馬が合わないみたいで…」
「折角の美味いご飯なのにこんな空気にして悪かったね。アンには後でウチらから言っとくから許しとくれよ」
ドロシーとトロンが居たたまれなくなったのか申し訳なさそうに話し掛けて来た。レイもこの2人とは仲良くやってるのに何故アンとはこうも険悪になるんだろうか?
「別にお前達が謝る必要は無ぇよ。この喧嘩はアンだけが悪ぃ訳じゃ無ぇしな。それにしても女同士の喧嘩ってのは怖ぇモンだな」
「サクヤ達は皆仲良くやってくれてるので本当に良かったです。もしこんな喧嘩になったらどうして良いか考えるだけでも恐ろしいですよ」
「喧嘩ねぇ…野郎同士なら殴り合わせてそれで終わりに出来るんだけどなぁ。冒険者同士の揉め事は大体それでカタがつく」
なんとも豪快な解決方法だ。でも後々禍根を残さない為にはそれが一番良いのかも知れない。
「もういっその事2人にも殴り合いで決着を付けてもらえたら良いんですけどね」
溜息混じりに呟いた俺の言葉が聞こえたのかレイとアンがピタリと言い争いを辞めた。マズい、嫌な予感がする。
「「そうよ!それが良い(です)わ!」」