254 好意の理由
「ユイトよ、この様な場所に1人で何をやっているのだ?見張りならばあのエルフの男がやると言っていたではないか?」
「あぁ、ちょっと寝付けなくなってね。散歩していたら月が綺麗だったからつい見とれてたんだ。ルナこそこんな時間にどうしたんだ?」
「余も寝付けなくて散歩をしてたところだ。どうだ?寝付けない者同士2人で愛をたしかめ合うと言うのは…あうっ!何をする、痛いではないか!?」
俺の顔を覗き込みながらルナが顔を近づけてきたので軽くデコピンをお見舞いした。マセたヤツめ、無理をしたせいで顔が真っ赤になってるじゃないか。
「変な事しようとしたからだ。大体お前キスなんてした事ないだろ?自分を大事にしろよ。そう云う事は本当好きな人が出来た時の為に取っておくんだ」
「…ユイトのバカ」
小声で何か呟いたルナが頬っぺたを膨らまして俺を睨みつける。昔実家で飼っていたハムスターを思い出した。こう云うのを小動物系女子というのだろうか。
「それより良かったのか?二つ返事で俺達に同行する事を決めてくれたけど。多分ルナが考えてるよりも危険な旅になる。最悪命を落とす事だってあるかも知れないんだぞ?」
「くどい、先程も言ったが我が命は主人であるユイトと共にある。付いてくるなと言われても付いていくぞ」
「全くなんでお前達は皆して初対面の俺をそんなに信用できるんだよ?MMORPGでの付き合いが有ったと言ってもそれはあくまでプレイヤーとアイテムの付き合いだったろ?」
サクヤを始めとして俺の装備品に宿った女神達は最初から俺に好意を持ってくれていた。今までも皆に何故俺を信用してくれたのか聴いてもはぐらかされるだけでその答えを聞けた事はない。
「なんだ、そんな事が気になっていたのか?では問うがユイトはMMORPGのガチャで余の依代を当てた時にどんな気持ちになったか覚えているか?」
「どんな気持ちってそりゃあ嬉しかったに決まってるじゃないか。月下の外套を当てた時の事は今でも良く覚えているよ」
「だからユイトに好意を持っているのだ。余が生を受けて最初の記憶は余が当たった事を喜んでくれているユイトの姿だった。自分が生まれた事を心底喜んでくれた者に好意を持つ事は当たり前ではないか?」
そうか、ルナ達女神にとってはガチャから排出された瞬間が誕生した時だったのか。確かに自分が生まれた事を喜んでくれた者に好意を持つ事はわかるのだが…
「そんな単純な事で良いのかな…だってガチャで当たりが出たら喜ぶのは普通の事だし…」
「つべこべ言うでない。元々我らとユイト達人間では感性が違う。それに好意を持つと云う事は自分でコントロールできる事ではない。我らはユイトを好いておる。それで良いではないか」
まさかルナに言い包められるとは。きっかけはともあれ皆が俺を信頼してくれているのは事実だ。その信頼を裏切らない様にしなければならない。
「そうだな…皆の信頼に応えられる様に頑張るよ」
「はぁ…ここまで言っても我らの気持ちに気づかないとは…」
月が照らすドラゴンロックの山にルナの溜息が響く。その溜息の意味を俺は理解出来なかった。




