251 月下の外套
トロンが取り出したのは暗い藍色の外套。見間違い無い。これは俺が無くした装備品の最後の一つ、月下の外套だ。
「あの~?どうかしましたか?ボーっとしちゃったりして」
「あぁ…この月下の外套で俺の無くした装備品が全て揃うんだ。ついにこの時が来たと思ったら感慨深くなってつい…」
MMORPGからこの世界に転移してかれこれ半年以上は経つ。武器、防具、手装備、脚装備、頭装備にアクセサリー。そしてこれで胴装備が揃った事になる。
「さぁ受け取って下さい。これは元々ユイトさんの持ち物なんですから」
「ありがとう…なんだか最後は呆気無かったな」
トロンが差し出した月下の外套を手に取り改めてこれが俺の装備品だと云う事を実感できた。
「ユイトさん、早速装備してみて下さいよ。きっと似合うと思いますよ」
「主さまのファッションショー。はよ」
「今着てる上着は預かっといてあげるわ。あんまり勿体ぶるんじゃないわよ」
「いよいよ私達の仲間が全員揃うのね。どんな子が出てくるのか楽しみだわ」
「これでボクも先輩かぁ…新しい子に先輩らしいところを見せなくっちゃね」
サクヤ達も最後の装備品が揃った事を喜んでくれている。俺は脱いだ上着をテミスに渡して月下の外套に袖を通す、サイズもぴったりだ。次の瞬間辺りに閃光が走った。
「ククク…どれだけこの時を待ちわびた事か…今日はなんと素晴らしい日なのだ」
閃光がおさまると目の前に1人の少女がいた。薄い紫色の髪をツインテールに纏め片目には眼帯がつけられている。背丈はアイギスと同じ位だ。
「会いたかったぞ我がマスターよ。さぁ今こそ熱いベーゼを交わそうではないか!」
「ちょっ!いきなり飛びついてくるな!近いって!ベーゼってキスの事か!?何考えてるんだ!」
突然飛び掛かって来た少女に押し倒され馬乗りの体勢にされた。少女の唇が俺に近づく、このままじゃ…
「はい、そこまで。いきなりユイト君の唇を奪おうとするなんてルール違反よ」
「離せ!は~な~せ~!余とマスターの逢瀬を邪魔するでない!」
「ふぅ、助かったよメリッサ。いきなり飛び掛かってくるなんて思わなかったよ」
唇が触れる寸前でメリッサが少女の襟首を掴み引き離した。少女はジタバタと手足を振り回して解放されようと暴れている。まるでダダをこねる子供の様だ。
「全く…もう飛びついて来ないなら解放してやる。お前が月下の外套に宿った女神、で間違い無いんだよな?」
俺の問い掛けに少女は暴れる事を辞めてコクンと頷いた。