247 剣の道
「はい、それまで!丁度1時間ですわ。剣の振りがサマになって来ましたわね、短い期間でここまでの上達…素晴らしい才能ですわ。はい、冷たいお水をどうぞ」
「ふぅ…少しは剣の扱い方かわ分かって来た気がするよ。我武者羅に力一杯振れば良いって訳じゃ無い事が体で理解出来てきた、ありがとうなレイ、君のお陰だ」
邪竜ルシオンが封じられていると云う山頂を目指し始めて数日、日課になった朝の剣術訓練を終えた俺はレイが汲んでくれた湧水を一気に飲み干した。
「剣術の基礎はもう身体が理解しはじめたようですわね。後は実戦を重ね自分の剣を極めるのがよろしいかと。貴方は剣の道の一歩目を歩み始めたのです」
「剣の道か…果てしなく長い道になりそうだな…」
「そうですわね、一生を終えるまでに果たして自分が満足できる剣を振れる様になるかどうかは誰にもわかりませんわ」
何事もその道を極めようとすると自分の人生を賭ける事になる。俺は剣の道を歩み始めたばかり。21世紀の日本に生きていた頃はまさか自分が剣術を志す事になるとは思わなかったな。
「とにかくありがとうな。レイのお陰でなんとか剣の道を歩み始める事が出来そうだ、何かお礼がしたいんだけど欲しい物とかあるか?俺に出来る事ならなんでも言ってくれ」
「私も剣術の訓練に励むユイトを見て良い刺激を受ける事ができましたわ。お礼ですか…そうですわね、貸し一つって事にしておきますわ。いつかとんでもないお願いをするかも知れませんわよ」
そう言いながらレイが悪戯っぽく笑う。本当に気さくな子だ、こうしていると一国の王女様だとはとても思えない。
「なんだか冗談に聞こえないな…まぁ困った事があれば必ず力になる。約束だ」
「ふふふ、約束ですね。とりあえずこれでユイトがドラゴンロックへ来た目的の一つは達成出来そうでなによりですわ」
「後は実戦を重ねるとするよ、幸いシグマさんやドラゴン達。この山にいる間は戦う相手に困る事はなさそうだ」
後は基本を忘れずに自分の剣を煮詰めていくだけだ。言うは簡単だか気の遠くなる様な年月が必要になるだろう。
「ところでユイト、もう一つの目的の方はどうなってますの?失われた装備がドラゴンロックのどこかに有ると云う話でしたが?」
「それがなぁ…テミスが言うにはドラゴンロックに着いてすぐ装備の反応が消えてしまった様なんだ。この山を手掛かり無しで探しまわる訳にもいかないし参っているんだよ」
テミスが感じ取っていた装備の反応が消失した。装備品自体が消滅したのかそれとも何者かに持ち攫われたのか、とにかく手探りでこの広大なドラゴンロックの山から目当ての品を見つけ出す事は不可能だ。
「あっ、いたいた。ユイトにレイ、そろそろ朝ごはんができるから戻って来いってさ」
近くの茂みからアンが呑気そうな声を上げながら姿を現した。今ここで悩んだところでどうしようもない。今日も1日中登山をする事になる、朝食を摂り訓練で失った体力を取り戻そう。