023 馬車は街へと
「アイギスちゃん!そ・ろ・そ・ろ交代しませんか?」
サクヤが引きつった笑顔でアイギスを威嚇している、こめかみにはピクピクと青筋が浮かんでいる。
怖いですよサクヤさん。
「ん、ことわる、主さまの膝はわたしのもの、じゃんけんは私が勝った、勝者の権利」
アイギスはフッと敗北者を一瞥して鼻で笑う。
アイギスは俺の膝を枕にして横になっていた、そろそろ痺れてきたんで降りて欲しいが口が出せる雰囲気ではない。
「羨ましいですな、独り者には目の毒です」
御者席でふくよかな中年男性、商人のカッパーさんが俺達のやり取りを見て笑っている、俺の顔を見て助け船を出してくれたのだ。
「すみませんカッパーさん、ほらアイギス、降りてくれ」
「わかった、名残惜しい」
「アイロンスティールの街が見えてきましたよ、ここまでくればモンスターも現れません、ユイトさん達を雇って本当に良かった、感謝してます」
馬車から前方を見ると遠くに街の防壁が見える、交易都市アイロンスティールだ。
「リード傭兵団には苦情を言っておかないと、まさか傭兵達が逃げ出すなんて思ってもいませんでした」
イール村に仕事で来ていたカッパーさんはリザードマンの襲撃で雇っていた傭兵達に逃げられ立ち往生していた、そこに俺達の話を聞きつけて雇ってくれたのだ。
「はぇ~大きな町ですね、美味しい食べ物もありそうです」
「お手柔らかに頼むよ、その前にコレを換金しないとな」
俺はアイテムバッグからオルトダイルの魔石を取り出す。
「きれい、主さま、コレも魔石?」
「オルトダイルってモンスターの魔石さ、高値で買い取ってくれるらしいぞ」
「ほぅ、中々の品ですな金貨100枚くらいにはなるでしょう、」
カッパーさんの見立てによるとしばらくは生活できる金額になりそうだ。
この1週間カッパーさんの護衛をしている内にこの世界の色々な事を教えてもらった。
流通している貨幣は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨がある、金貨は銀貨10枚の価値があり、銅貨、鉄貨も同じ様に10枚で1つ上貨幣の価値になるそうだ。
宿の相場が銀貨5枚との事なので俺の世界の価値だと金貨1枚=1万円ぐらいの感覚でいればいいと思う。
「そんなに高値が付くんですか!?」
「そうですね、私も魔石を取り扱って無いので詳しくはわかりませんが物によっては金貨1000枚で取引される事もあるそうです」
金儲けの匂いがするぞ、今の俺の力なら相当稼げるんじゃないか?、夢が広がるな、変な笑いが出てきた。
「ユイトさんが変な笑い方しています」
「主さま、悪い顔」
良からぬ想像をしている俺を乗せた馬車は交易都市へと進んでいく。




