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234 徒手空拳

魔族3姉妹の次女、ドロシーがその場でシャドーボクシングの様な仕草をしてみせる。シグマさんと戦う気満々の様だ。


「ウチは今まで何度もオッさんと闘りたかったんだけど姉貴とアンが逃げようって聞かなかったからさ、実は今すげーワクワクしてるんだよ」


「ガハハハハ、お前さんの様なヤツは嫌いじゃないぜ。得意な獲物はなんだ?見た感じ根っからの戦士タイプみたいだが?」


「ウチが得意なのは素手での戦闘さ。姉貴みたいに魔法を使っての戦闘はどうも苦手でね」


だからこそのシャドーボクシングか、俺は格闘技の事はさっぱり分からないが先程の彼女は素人目にもサマになっていたと思う。


「素手ゴロか、いいぜ、俺も獲物は使わねぇ。お互い素手で闘りあおうじゃねぇか」


「なんだよ、オッさんの獲物は剣だっただろ?ウチの事ナメてるってのかよ」


ドロシーが不機嫌そうに口を尖らせる。間違いない、この子は所謂バトルジャンキーってヤツだ。


「悪ぃな、お前さんの事をナメてる訳じゃないんだが今の俺の獲物は強力すぎて少し持て余してるんだ。勘弁してくれ」


「まぁいいや、今回はオッさんと闘れるだけで良しとするよ。その代わりもしウチが勝っても獲物を使わなかった事を言い訳にすんなよ」


「本当に面白ぇ嬢ちゃんだな。言っとくが俺も素手ゴロにはちぃっとばかし自信があるぜ?」


体格差だけを見ると華奢な少女と筋骨隆々の大男、とてもじゃないが殴り合いの喧嘩でシグマさんが負けるとは思えない。しかし相手は魔族、どんな力を持っているかわからない。


「本来なら勝負にルールなんていらないと思うんだがどうする?どちらかが負けを認めるか気を失った時点で決着って事でいいか?」


「ウチは構わないよ、エルフの兄さんが姉貴を倒した時点でウチらは既に負けてる様なもんだ。今からの闘いはウチの我儘…趣味みたいなもんだからな」


確かにシグマさんとオウルさん、それに俺の仲間全員で掛かればあっという間に彼女を負かす事ができるだろう。


「良し、じゃあ始めるとしようぜ。いつでもいい、掛かって来いよ」


「後で吠え面かくなよオッさん、言っとくけどウチはオッさんに勝つつもりでいるからな」


ドロシーが腰を落としいつでも仕掛けられる構えになる。対するシグマさんは腕を組んだまま動く気配すらない。


「余裕かましやがって…いくぜ!身体強化!!」


ドロシーの姿が一瞬ブレてその場から消えた。違う、ブレて見えたのは残像だ。ドロシーの本体は宙を舞いシグマさんの顔面に蹴りを入れようとしている。

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