229 弓の名手
「アレは…ミストルティン、見間違いじゃないよな?」
オウルさんの手に掲げられた純白の片手弓、あの弓には見覚えがある。MMORPGのガチャ装備ミストルティンだ。以前神様がこの世界にMMORPGの武器を持ち込んだと言っていたがこれはその中の一つなのだろうか。
「このミストルティンは強力すぎるから普段は使わない様にしているんだけどね。君の実力に敬意を表する意味で今回は使う事にするよ」
「だから矢の無い弓なんて何の意味も無いって言ってるんです!これで終わり、私の勝ちです!」
少女がまた黒球を繰り出す、先程と比べ数が少ないのは消耗している証拠だろう。少女が言っていた通り矢の無い弓ではこの攻撃に対抗する事は出来ない。しかしそれは普通の弓の場合の話だ。
「このミストルティンに矢は必要ない、僕自身の魔力を直接撃つ事ができるからね。行けっ!あの魔法を全て撃ち落とすんだ!」
ミストルティンから無数の閃光が放たれる。放たれた閃光は少女の黒球を全て撃ち落としてしまった。
「主さま、私もあの弓の事を覚えてる。何回防いでもしつこく攻撃してきてウザかった」
「MMORPGでは割と人気ある装備だったからな。弓スキルを習得してなくてもミストルティンを装備するだけで並の遠距離職より強くなれるって話が広まって皆あの弓目当てでガチャを回しまくったもんだ」
オウルさんが言っていた通りミストルティンは使用者の魔力を直接放つ事ができる武器だ。特筆すべきはその燃費の良さ、継戦力にある、平均的な魔力の持ち主でも休みなく数時間は攻撃し続けられる程に燃費が良く実質無限に矢を放つ事ができる正真正銘のブッ壊れ装備としてMMORPGで猛威を振るった。
「そのミストルティンを弓の名手であるオウルさんが手にしたら鬼に金棒ですね。パフィン村のエルフさん達も口を揃えてオウルさんの弓の腕前を褒めてました」
「そうだな、俺がMMORPGで相手にしたどのプレイヤーよりもオウルさんは弓の扱いに長けている」
息を切らしながら放たれる少女の黒球が次々と撃ち落とされていく。あの様子を見るに魔力切れを起こすのは時間の問題だろう、対するオウルさんは汗一つ流してはいない。
「はぁ…はぁ…まだです…私が諦めたらアンちゃんを助ける事が出来なくなる…絶対に諦めない!」
「これ以上続けても君が苦しむだけだ、悪いけどそろそろ終わりにさせてもらうよ。パラライアロー!!」
一筋の閃光がミストルティンから放たれる。閃光は一直線に少女へと向かっていき彼女の胸を貫いた。