022 アイテムバッグ
「本当にお世話になりやした、ユイトさん、サクヤちゃん、それとアイギスちゃんも達者でな」
イール村の村長ベータさんが別れの言葉を告げる、早朝にもかかわらず他の住民達も大勢村の門まで見送りに駆けつけて来てくれた。
「こちらこそお世話になりました、この村の事は忘れません」
村では色々な事があった、忘れようにも忘れられない。
「わだじも皆んなの事はわずれまぜん!」
村人達から貰った送別のプレゼント(主に食料)を抱きしめたサクヤの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
「サクヤは顔を拭くべき、ちーんして」
アイギスはサクヤにハンカチを差し出して鼻をかませる、まるで母親だな。
「君達には本当に助けられた、また必ず村に遊びに来てくれ、約束だ」
アルフさんが握手を求めて来た、俺達はガッチリと手を結ぶ。
「あなた達なら心配いらないと思うけど気をつけて旅をするのよ?都会には悪い人も多いから」
「お前さん達と会えて良かった、俺達はもう仲間だ、困った事があれば駆けつけるぜ」
「はい、俺も皆と旅ができて楽しかったです、色々大変でしたけど」
3人とも苦笑いだ、命がけの冒険だったもんな。
冒険者パーティ『赤き火』の3人と旅をしたのはほんの数日間だったが生死を賭けた冒険で俺達の間には固い絆ができていた。
「アルフ、本当にいいんだな?」
ベータさんがアルフさんに何かを確認する、アルフさんは無言で頷き返す。
「ユイト君、コレを貰ってくれないか?」
そういうと皮で作られたポーチを俺に差し出してきた。
「これはアイテムバッグと言って馬車一台分くらいの物を持ち運べる魔道具さ、中に入った物の重さは感じないし中の食料なんかは腐らない、きっと旅の役にたつと思う」
「貴重な物なんじゃないですか?」
「確かにね、でも僕は君に使って欲しいんだ、受け取って欲しい」
アルフさんは真剣な顔をしている、意地でも俺に渡したい様だ。
「大切に使わせてもらいます、ありがとうございます」
「そろそろ馬車の準備が終わったみたいだ、使い方は馬車の中で商人さんに聞けば分かると思う」
俺達は村に行商に来ていた商人に護衛として雇われた、リザードマンの襲撃で村に足止めされていた商人でアイロンスティールの街までの契約だ。
情報を集めるなら都会の方がいいだろうと言う話になり俺達はひとまずこの辺りで一番人が行き交う交易都市アイロンスティールを目指す事を決めた。
「皆さん!お元気で!お世話になりました!」
俺達は馬車の荷台から手を振る。
村の皆も馬車が見えなくなるで手を振ってくれていた。




