212 指導役
今この場に剣術の基礎をよく知る人物がいると言うオウルさん。もしかしてオウルさんも剣術の心得があるのだろうか。
「オウルさんが剣術を教えてくれるんですか?それなら凄く助かります」
エルフ族一の戦士であると同時に世界でも数少ないS級冒険者でもあるオウルさん、彼に教えを請う事ができるなら願ったり叶ったりだ。
「いや、僕は剣の扱いはからっきしでね。ユイト君に剣術の基礎を教える事は出来ない。君に剣術を教える事ができるのは彼女だ」
オウルさんが視線を追い全員がある1人の人物に注目する。
「はぇ…?もしかして私の事ですの?」
「そうだ、レイ、君は王立学院で剣術の基礎を学んでいるね?しかも剣術の成績は至って優秀だった筈だ」
「そんな!確かに学院での剣術の成績は良かったですけど所詮は学生として。シグマ師匠と対等に渡り合えるユイトに私が剣術を教えるなんてとても無理ですわ…」
「オウル、姫ちゃんの言う通りだと思うぜ。ユイトの実力は俺やお前と同レベル、今更王立学院で教えている様な内容が役に立つとは思えねぇ」
王立学院、確か王都にある若者へ学問や魔法、それに武術を教える学校だったな。王都滞在中に機会があれば立ち寄ってみたかったげ結局一度も訪問する機会が無かった。
「だからこそレイが適任だと思うんだ。今回ユイト君が身につけたいのはあくまで剣術の基礎。それならば下手にどこかの流派に弟子入りするよりはよっぽど良い」
「どう云う意味でしょうか?私などよりユイトの指南役として相応しい人物は世にごまんといると思いますわ、多少時間が掛かってでも街へもどり師を探す方がよろしいかと…」
「いや、学生の、変に自分の剣に拘りを持っていないレイだからこそがユイト君の師として最適なんだ。シグマ、仮に君が道場を開いていたとしてある日突然ユイト君が入門したいと訪ねてきたとしたらどうする?」
「そうだな…ユイト程の才能があるヤツが自分に教えを請いに来たら…きっと自分の持つ技術全てを教えたくなる。そうか!そういう事か!」
うんうんと何やら気づいた様子のシグマさん。どういう事だろうか?学生のレイが俺の指導役として最適な理由とは一体。
「気づいた様だね。自分で道場を開いたりしている人間は多かれ少なかれ自分の剣にこだわりを持っている。そんな人がユイト君程の才能の原石に出会えば必ず自分の後継者にと考える筈だ」
「長い事ソイツに師事するならそれでも問題は無ぇ。しかし今回のパターンは話が別だ、短期間で変に拘りの有るヤツの指導を受けてしまったら中途半端に変なクセが付いちまう。そうなれば劣化した師匠のコピーの出来上がりだ」