210 不自然
「届きませんでしたか…俺の負けです」
2人の獲物が激突する、全身全霊を込めた最速の一撃。しかしその一撃でもシグマさんへ届く事は無かった、俺の敗北宣言と同時に手に持っていた木の枝がポキリと折れる。
「いや、この勝負引き分けだ、俺の方だってホラ、これ以上は戦えそうにない」
そう言ったシグマさんが手に持つ獲物を一振りすると俺の物と同じ様に根元から先が飛んで行ってしまった。
「それでも内容的には俺の完敗でした。手合わせありがとうございます」
「おいおい、これは手合わせじゃなくてお前さんの実力を計る為の訓練だって事を忘れちゃないか?まぁ俺も熱くなりすぎちまってたけどな」
鬼神化を解除すると全身に倦怠感が襲いかかってきた、よろめく俺の肩をシグマさんが支えてくれる。
「大丈夫か?随分と消耗しちまった様だな。それにしても驚いた、さっきの姿はまるで俺達鬼族にそっくりだったじゃねぇか?」
「ユイトさん、大丈夫ですか?力を使い過ぎちゃいました」
俺と分離したサクヤも心配しシグマさんと逆の肩を支えてくれた。依代を納めたままだとここまで鬼神化の反動が大きいとは知らなかった、これも今回の戦いで得た収穫だな。
「少し休めば問題ありません。それで俺の戦い方はどうだったでしょうか?気づいた事があれば教え欲しいんですが…」
「そうだな…なんて言うかその…言葉がでてこねぇ、ちょっと頭ん中整理するから待ってくれ」
シグマさんが額に指を当て考えこむ、この人は言いたい事は遠慮なくズバズバと口に出しそうなタイプだと思うが何か気になる事でもあったんだろうか。
「あ~そのアレだ、アレ。一言で言うと不自然な感じがしたな。そう、何だかお前さんの戦い方はチグハグな感じがするんだ」
「不自然ですか?それは一体どう言う意味なんでしょうか?」
「例えば最初に俺を弾き飛ばしたあの技。あの時のお前さんの動きはそれは見事なモンだった。何十年も剣の道に生きた達人が放つ様な文句の付けようもない完璧な一撃だ」
旋風の事だろう、VRMMOで身につけた剣スキルの基本技。今まで数えきれない程使って来た技だ。
「かと思えばその辺りのチンピラの様に力任せに獲物を振り回す様な攻撃もあった。まるで達人と素人の2人を同時に相手している様だったぜ」
それがシグマさんが感じた不自然さの正体か。俺が使用する剣スキルは身体が勝手に動き技を繰り出す。対して普通の攻撃は自分の意思で身体を動かしての攻撃だ。つまり俺の通常の攻撃は力任せに動いているだけだと云う事になってしまう。