209 2匹の鬼
木が倒れ大地が抉れる。俺とシグマさんの戦いで軽く周囲の地形が変わってしまった。鬼神化した俺の攻撃を正面から受け止めるシグマさん、全くなんてバケモノじみた人なんだ。
「ハァハァ…これだけ撃ち合って一撃も入れられないなんて…」
『ユイトさん、力の消耗が激しいです。やっぱり私の依代を鞘に納めたままでは100%鬼神の力を使いこなす事は無理だったみたいです、すみません…』
一度呼吸を整える為に距離を取った俺にサクヤが語りかける。最初は問題ないと思われた鬼神化だか普段よりも力の消耗が激しい、このままではそう長くは戦えないだろう。
「バテちまったのか?あれだけ激しい攻撃を繰り返せばムリもねぇな、ここらで終わりにするか?」
対するシグマさんは全く息を切らせてない。それどころが俺の状態を気にする余裕さえある、一見互角に見える戦いだが圧倒的に俺が不利なのがこの模擬戦の現状だ。
「いえ、まだ終わりたくありません…とは言っても次の一撃が最後になりそうですけど」
「そうだな、いくら闘気で強化してるとは言え所詮は只の棒切れだ。俺の方もそろそろへし折れちまう」
俺が手に持っている木の枝には太い亀裂が走り今にも折れてしまいそうだ、シグマさんの方も同じ様に獲物がボロボロになっている。
「お互い自分の武器でやり合ってたらどうなってただろうな?お前さんは自分の全てを出し切ってないだろ?」
「間違いなくどちらかが死んでしまうでしょうね。全部を見せていないのはシグマさんも一緒じゃないですか、全く実力の底が見えません、流石は最強の男だと思い知らさせました」
この戦いはあくまで俺の実力を確かる為の模擬戦。俺は鬼神化以外の装備の力を使わずに戦ったがシグマさんも全ての手の内を見せた訳では無い。
「ガハハハハ!褒めたって何も出ねぇぜ。それじゃこの戦いを終わりにしよう、いつでもかかって来い」
シグマさんが最初の様に腕をダラリと降ろす。何度か撃ち合う内に分かって来たがこの人の戦い方はまさに天衣無縫、自然体でいる事でどの様な攻撃にも即座に対応しどんな体勢からでも攻撃を繰り出せる、圧倒的な身体能力とカンの良さがあるシグマさんにしか出来ない戦い方だ。
『凄い人ですねシグマさんは、隙だらけな様で全く隙がありません。どう仕掛けるつもりですか?』
『俺にできる事なんかたかが知れてるさ。シグマさんが反応出来ないスピードで対処出来ない威力の一撃を放つ、只それだけだ』
俺と同化しているサクヤにも十分シグマさんの強さが理解できたみたいだ。次の一撃に全てを込める、俺は全力で地を蹴り駆け出した。