208 壁
「な…何が起こっているんですの？2人の姿が見えませんわ…」
私は目の前で起きている事が理解できずに只呆然と立ち尽くしていました。最強と呼ばれるシグマ師匠と先日出会った少年。2人の戦いは模擬戦と言うにはあまりにも激しく、そして次元の高い戦いです。
「驚いたね、あの状態のシグマとここまで渡り合えるなんて…正直僕も予想外だよ」
「オウル師匠にはあの2人の動きが見えているのですか？」
「あぁ、何とか目で追えているよ。2人は超スピードで獲物をぶつけ合っている、今のところはほぼ互角の戦いだね」
隣で戦いを見守っていたオウル師匠には2人が何をしているのか見えいる様です。やはりオウル先生も屈指の実力を持つ冒険者、私とは立っているステージが違います。
「レイ、君だって十分に強い。このまま精進すればいずれ僕と同じ位の力を持つ事は出来る様になる。焦ってはいけないよ」
「オウル師匠…」
オウル師匠には私の考えなどお見通しの様です。私とさほど歳も変わらない1人の少年、彼が最強と呼ばれるシグマ師匠と互角に戦っているのを目の当たりにした私は彼に憧れるのと同じ位に嫉妬の感情が湧き上がっていました。
「私も少しは自分が強くなっている実感があったのですが…正直あの2人を見てしまうと自信なんて無くなってしまいますわ」
同時に巻き起こる自分への苛立ち。王立学院でも戦闘訓練の成績は学年1位だった私は密かに同年代で自分に勝てる者はいないと驕った考えを持っていました、今日この時までは。
「あの2人は間違いなく世界最強レベルの力を持っている。レイ、僕は君が今日あの2人の戦いを見れた事は君にとって大きな財産になると思うんだ」
「なぜそう思うのですか？ここまで次元の違う戦いを見せつけられても私に真似出来る事などありませんわ」
「武の道を歩む人間はいつか必ず壁にぶつかる。目の前で戦っている2人を見た今のレイの様にね」
オウル師匠は何を私に伝えたいのでしょう。確かに私は2人の戦いを目の当たりにして自信を木っ端微塵に打ち砕かれました、それが私の財産になる？意味が分かりません。
「君がぶつかった壁は世界で一番高い壁だ。
もしその壁を乗り越える事が出来たら一体どんな景色が見えるんだろうね？」
「私に…乗り越える事ができるんでしょうか…？」
「それは君次第だ、でも僕もシグマも、多分ユイト君だって今まで壁を乗り越えて来た、乗り越えた壁の高さだけ人は強くなれる」
そうですわ、私にはまだまだ伸び代が有ります。自分で自分の可能性を信じてあげなくてどうするのです。
「必ず…この壁を乗り越えてみせますわ！」
姿の見えない２つの高い壁を目に焼け付けながら私は決意しました。
