207 鬼の力
地面に足を付けたままシグマさんが弾き飛ばされる。二本の足が大地を抉りまるで電車のレールの様な跡を作る。
「なんだ今の動きは…さっきとはまるで別人の様な攻撃だったぜ?」
「全くダメージを受けてないなんて流石ですね。正直今ので決まったと思ったんですが」
きょとんとした表情でこちらを見つめてくるシグマさん。いくら木の枝で放ったとは言え今の攻撃を無傷で凌ぐとは思ってもみなかった。
「確かに危なかった、真剣でやり合ってたら今頃大怪我してたかもな。いいもん見せてくれてありがとうよ。お礼に俺のとっておきを見せてやるぜ」
「なんだ!?シグマさんの身体が急に大きく!?」
先程までとは比べ物にならないプレッシャーを感じる。対峙するシグマさんの身体が巨大化したかの様に錯覚してしまった。
「これが…最強と呼ばれる男か…」
「鬼族の戦士は普段自分の力をセーブしているんだ。そうじゃなきゃ力の加減が出来なく日常生活が送れなくなっちまうからな」
「それでもまだ本気って訳じゃなさそうですね。全然実力の底が見えない…なんて人なんだ」
「かっかっか!バレてたか、因みに今解放したのは全力の3割ってところだな。模擬戦とは言え俺にここまでさせたんだ、誇っていいぜ」
豪快に笑い飛ばすシグマさん、俺の実力を少しは認めてくれた様だ。しかし俺だって今の状態が万全だと云う訳ではない、この人に俺の全力をぶつけてみたくなった。
「サクヤ!アレをやるぞ!準備はできてるか!?」
「アレって…まさか鬼神化するつもりですか!?これは只の模擬戦ですよ!?」
俺達の戦いを見守っていたサクヤが急に話を振られ驚いた声をあげる。俺だって最初は模擬戦で鬼神化を使う気は無かった、しかし最強と呼ばれる男が力の片鱗を見せてくれた以上こちらも本気を出さなければ失礼になってしまう。
「この人なら俺の本気を受け止めてくれる、いくぞ!」
「もう!どうなっても知りませんよ!?」
「「鬼神降臨!!」」
サクヤの身体が光になり俺の中に入ってくる。全能力値を普段の100倍にする俺の切り札、鬼神化だ。
「…なんてこった…ユイト、お前さんも鬼族だったのか?」
「いえ、残念ながら違います。コレは俺の技の効果で一時的に鬼神の力を宿しているだけです。シグマさん、俺の全力を受けてもらえますか?」
「勿論だ、こんなにワクワクするヤロウに出会えたのはいつ以来だったろうな…ただしコレは模擬戦って事を忘れねぇでくれ、使う獲物はあくまでコイツだ」
木の枝を構えるシグマさんを見て我に帰った。一度抜いた鬼神刀咲夜を再び鞘へと戻し木の枝を構える。よし、この状態でも問題無く鬼神化は維持できるな。