205 ドラゴンを食べよう
ジュウジュウと肉の焼ける匂いが辺りに立ち込める。すっかり日も沈んでしまい夕飯には良い頃合いだ。
「この匂いでお預けは拷問、まだ焼けないの?もう我慢の限界。腹ペコの極致」
「ハハッ、涎が垂れてるぜちっこい嬢ちゃん。そろそろ頃合いだな…そらっ!出来上がりだ!」
燃えたぎる炎で炙られている串刺しの肉をシグマさんが取り分けてくれた。塩と胡椒で味付けをしただけのなんとも豪快な料理だ。
「美味っ!!なんだこの味は!こんなに美味い肉食べた事ないぞ!」
「はぁ~幸せです…このお肉なら無限に食べられそうです、こんなお肉がこの世に存在したなんて…」
「どうだ?美味いだろ?今食ったのは翼の付け根の部分だ。肉はまだまだ幾らでもあるぜ、なんたってレッドドラゴン1匹丸々と有るんだからな、ガハハハハ!」
笑い声をあげながら手づかみで肉を掴み豪快に食いちぎるシグマさん。それにしても美味い肉だ、口の中で肉の繊維が解けながら旨味が凝縮された肉汁を撒き散らす、まさに至福の味。この肉の存在を知ってしまったら今後他の肉では満足できそうにない。
「私も久しぶりにドラゴンの肉を口に出来ましたわ。前回食べたのは何年か前の私の誕生日のパーティだったと思います、あの日以来何度ドラゴンの肉を食べたいと願った事か…」
「レイは一国の王女様だろ?食べようと思えばいつでも口に出来たんじゃないか?」
「例え王族でもそれは難しいだろうね。ドラゴンを1人で狩る事が出来る人間なんて世界中探してもシグマくらいだろう。確かレイが以前食べたドラゴンの肉もシグマが狩った物だったと思うよ」
「そんな事有ったか?何年も昔の事なんざ一々覚えてねぇよ。それよりホラ次が焼けたぜ、ガンガン食ってくれ」
次々と焼きあがる肉を一心不乱に食べるサクヤ達、よほどドラゴンの肉が気に入った様だ。俺も負けてはいられない、今日は胃袋の限界までこの肉を詰め込んでやる。
「おいおい、こりゃ本当に1匹丸々食い尽くしちまうじゃねぇか?特にそこの黒髪の嬢ちゃんは惚れ惚れする様な喰いっぷりだな」
やはり大食いでは到底サクヤに敵わない。俺が一切れ食べる間にサクヤは軽く十切れは平らげてしまう。更に恐ろしい事に全くペースが落ちる気配がない。
「サクヤさんったらそんなに細い身体のどこに食べた物がいっているのでしょうか?不思議ですわ…」
「不思議といえばさっき嬢ちゃん達が急に姿を現した時は俺も驚いたぜ。それに空を飛ぶユイトにもな、アレは魔法か?」