199 ドツボ
逃げる事を諦めた俺は追いかけてくる少女を迎え撃つ事を決めた。このまま逃げ切る事が難しいというのもあるが野営地に戻り待ち伏せされては逃げ切っても意味が無い。冷静に話し合わなければ。
「ゼェ…ゼェ…よ、ようやく観念しましたわね…」
「まさか君がここまで追ってくるなんて思わなかったよ。もう一度聴くが俺の話を聞いてもらえないか?」
「お黙りなさい!何を言おうが貴方が私の裸体を覗き見た事実は変わりませんわ!貴方の記憶を消すしかありません!」
やはり話は聞いてもらえないか。こうなれば多少手荒な真似をしてでも冷静になって貰おう。不本意だか仕方ない。
「わかった、君にはちょっと冷静になってもらう事にする。出来るだけ手加減はするけど少し痛い目を見てもらう事になるだろう」
「貴方が私を痛い目に?ふふふ…私も甘く見られたものですわね。良いでしょう、痛い目に合うのは貴方の方だと思いますけど」
咲夜を抜き少女へと切っ先を向ける。相手の獲物は先程の木の枝、少し卑怯な気もするが別にこれは真剣勝負ではない。あくまでも彼女に冷静になってもらう為の緊急措置だ。
「それでは私からいきますわよ!ライトニングスティング!!」
少女の身体が眩しく光ると同時に猛烈な速度で突きを放ちながら突進してきた。速い上に俺の意識の隙を突いた攻撃、見事だとしか言い様が無い。
「凄いな、今まで出会って来た人間の中じゃ誰よりも疾い攻撃だ。普通の人間じゃ今の一撃でやられてしまうだろう。関心したよ」
「なっ!?私のライトニングスティングを片手で!?幾ら武器が木の枝だからと言ってもあり得ませんわ!」
少女の突きが身体に当たる寸前、俺は半身をずらし攻撃を避けると同時に片手で木の枝を掴んだ。これが本物の剣だったらこんな芸当は出来なかっただろう。
「これで勝った気にならない事ですわ!ライトニングレイ!!」
掴まれた木の枝を離した少女が飛び退きながら先程と同じ魔法を放って来た。咄嗟の判断力も素晴らしい、この判断は実戦慣れしている証拠に違いない。
「そろそろ俺も攻撃させてもらう。少し怪我をするかもしれないがちゃんと後で治療するから心配するな。真空波!」
極力威力を抑えた真空波を放つ。真空波は魔法を搔き消しながら空中で身動きが取れない少女へと襲いかかった。
「キャアアアアアアア!!!」
少女が風の刃に全身を切り刻まれる。威力を抑えた効果で少女の肌に無数の小さな切り傷が出来ていく…無数の切り傷?マズい!このパターンは!!