190 死臭
「山に近づくにつれて足元が険しくなっていく、まだ山を登り始めてもないのにこの有様か…、皆、足元に十分気をつけるんだ」
野営地を出発した俺達はドラゴンロックの山の麓へと辿りついた、人の痕跡を全く感じられない手付かずの自然、道という道も無く草むらや木の枝を咲夜で切り払いながら慎重に進んで行く。
「不思議です、これだけ手付かずの自然があるのに生き物の気配を感じません、まるでドラゴンロックの山を恐れて生き物が近づかないみたいですね」
「それに少し肌寒いわ、気味が悪いっていうか…過酷な登山になりそうね、ユイトくん、アイテムバッグから上着を出してもらえないかしら?」
「くちゅん!!主さま、少し休憩しない?朝から歩きっぱなしで疲れた」
アイギスのくしゃみが辺りに響き渡る、俺たちはまだ山を登り始めてもいない、無理は禁物だ、それにそろそろ日が傾き始める時間だ、今日の野営地の確保も考えないといけない。
「よし、今日はそろそろ終わりにしよう、今から山を登り始めても危険だしな、適当な場所を見つけて野営の準備を始めよう」
「じゃあボクが良さそうな場所を見つけてくるよ、皆は少し休憩してて…!?血の匂い!?皆気をつけて!」
「モンスターか!?テミス、敵の気配を探ってくれ!アイギスはいつでもシールドを張れる様に準備を頼む!」
ルメスの言う様に気をつけてみると辺りに漂う死臭を感じ取る事ができた、ここは普通の人間が近寄ろうともしない危険地帯、どの様なモンスターがいるかも分からないのだ、最大限に警戒をする必要がある。
「…生き物の気配を感じられないわ、近くにモンスターはいないみたい」
「しかしこの死臭は?ルメス、この匂いはどこから漂ってきているか分かるか?」
「えーっと…風は山から吹き下ろして来ているから…こっちの方からだね」
「何があるか匂いの出所を確認しよう、皆警戒を解かないでくれ」
ルメスが匂いを感じとった方角へと道なき道を進むにつれ死臭がキツくなってきた、一体何が起こったのだろうか。
「!?ユイト!アレを見て!凄い数のモンスターの死体…」
少し歩くと木や草が生えていない拓けた場所へ出た、見るとその広場には無数のトカゲの様なモンスターの死体が散乱している、その数は100体を優に超えているだろう。
「何よコレ…モンスター同士の縄張り争いかしら?見た感じ結構強そうなモンスターだけども」
「いや…コレは人間の仕業だ、刃物で真っ二つにされている、こっちの死体は眉間を矢で射抜かれているしな、おそらく俺達が探しているシグマさん達がやったんじゃないだろうか」