幕間 伝書鳩
雲の中を一羽の鳥が飛ぶ、精悍な顔付きのその鳥はハイドピジョンと呼ばれる珍しい鳥で凶悪なモンスターでも捕捉出来ない程隠密性に優れた鳥だ。
ハイドピジョンの脚にはグランツ王家の紋章が刻まれた書簡が括りつけられていた。
『親愛なる我が友、そしてバカ娘へ
どうだい?ドラゴンロックへは辿りつけたかな?君達の事だから心配はしていないが伝えたい事があって筆をとった、シグマ、君に頼みがあるんだ。
シグマに稽古をつけて欲しい若者が君達の後を追い王都から出発した、君は知ってるかどうかわからないが勇者と呼ばれている若者でユイト君って名前だ。
彼にも僕の書状を持たせているから出会う事が出来れば目印にして欲しい、まぁシグマならいつも口にしている『強いヤツの気配』とやらで本人かどうか分かると思うけどね。
彼はオウルの家族とも親交があるみたいなんで話を聞いてみるといい、パフィン村が魔族に襲われた事件があったんだけどその危機を救ったのはユイト君とその仲間達だ、ラッカ先生も彼らを気に入り王都にいる間は屋敷に招き入れてたんだ、きっとオウルともウマが合うと思う。
最後に…レイ、学院の寮から勝手に抜け出しシグマ達に付いて行ったと聞かされた時は気を失いそうになったぞ?お前がじゃじゃ馬な事は知っていたがまさかこれ程までとは…
レイが王都を離れた後色々とあってね、もうお淑やかにしろとか王女としての自覚を持つ様に五月蝿く説教をする必要は無くなった、今は王と王女としてでは無く只の父と娘としてお前に一言言いたい事がある。
どうか無事に帰って来て欲しい。
今の僕がレイに望んでいるのはこれだけだ。
まぁ他にも君達に伝えたい事は色々あるがユイト君に聞いてくれ。
それでは君達が無事に帰ってくる日を楽しみにしているよ。』
ハイドピジョンが眼下に何かを見つけた、高度を下げようとするが地上から放たれる凄まじい気配を察知し再び上空へ舞い上がる。
地上では無数の爬虫類の様な姿のモンスターに囲まれている3人の人間がいた、普通に考えると彼らがこの状況で助かる術はない。
しかしハイドピジョンが恐れた気配はモンスターから放たれたモノでは無かった、3人の中の1人、剣を構えた男から発せられたモノだったのだ。
男が剣を振るう度にモンスターは次々と命を散らしていく、あっと言う間に彼らを囲んでいたモンスターは全て肉塊へと成り果てた。
地上での戦闘、いや虐殺が終わった事を確認したハイドピジョンは再び地上へと高度を下げるのだった。