188 ルメスの旅立ち
夜明け前の王都グランズの城門、俺達の旅立ちを見送る為に親しくなった人達が見送りに来てくれた。
「アンタ達と過ごしたのは短い間だったけど楽しかったよ、出来る事なら私も旅に同行したいんだけどねぇ」
「なりません、奥様には旦那様の名代としての執務がございます、それに加え城下町の復興には我がバルメス家も出来る限りの支援を行う事になったではありませんか、大体奥様は昔から…」
説教モードに入りかけたペーギさんをみて慌ててラッカさんが弁明を始めた、よほどペーギさんのお説教が苦手みたいだ。
「ちょっと冗談言ってみただけじゃないかい、本当に真面目が服を着ている様な男なんだから」
破天荒なラッカさんにそれをサポートするペーギさん、この2人には王都に来てからお世話になりっぱなしだったな。
「お2人にはお世話になりました、全て終わって平和な世界になったら是非一緒に旅に出かけましょう、あっ、勿論クラブさんとペーギさんも一緒ですよ」
「なんだい?僕は連れて行ってくれないのかい?実は昔から自由に旅をする旅人達に憧れていたんだ」
「国王様、それは流石に難しいですよ、一国の長を旅に連れ出したりしたら俺はお尋ね者になってしまいます」
「ユイト君の旅に付いて行くのは僕がこの国の王じゃ無くなった時だ、王や貴族がいない全く新しい国を作る、それなら問題はないだろう?」
国のトップでありながら自分の地位を捨て本当に皆が笑って暮らせる様に国を造り替えようとする夢想家、しかしこの人にはそれを成し遂げてしまえると皆に思わせるカリスマがある。
「えぇ、その時には是非、その為にも俺はもっともっと強くなります、このまま偽神を野放しにすればこの世界には永遠に平和は訪れません」
「…すまないね、君には随分と重い荷物を背負ってもらっている」
「そんな事はありません、俺がやりたくてやっている事ですから」
これは俺の本心だ、偽神を倒さない限りこの世界に来てから仲良くなった人やお世話になった人達がいつ命を落とす事になるかわからない、それを防ぐ力が俺にあるならば俺は迷わずその力を行使する。
「こんな時に湿っぽい話は似合わないね、君達の旅に幸多からん事を、ルメス、君にも色々と世話になった、また会える日を楽しみにしているよ」
「ルメス、私はお前に教えてない技がまだまだ有る、死ぬ事は許さん、必ずまた生きて私に会いに来い」
ルメスの目に涙が浮かぶ、記憶を失っている間のルメスはこの2人に随分と世話になっていたからこみ上げるものがあるのだろう。
「師匠…陛下、私達はきっと偽神からこの世界を守ってみせます、今まで…お世話になりました!!」
深々と頭を下げるルメス、登り始めた朝日が頭を上げたルメスの顔を明るく照らし、朝の訪れを皆に知らせていた 。