177 師弟
「なるほど…事情は把握致しました、まさか影の正体がサクヤ様達と同じだったとは思ってもおりませんでした」
侯爵派の反乱から数日後、俺達は王城の一室に集められていた、国王様にラッカさん、ペーギさんに今回の騒ぎの顛末を伝える為だ。
「俺もまさか影の正体が依代に宿った女神だなんて思いませんでした、ルメス、もういいぞ、実体化してくれ」
声を掛けると神靴ヘルメスから光が溢れその中から1人の少女が姿を現わせた、この少女こそがルメス、神靴ヘルメスの化身だ、見ている者を元気付ける様な笑顔の持ち主で短めに切り揃えられた髪型がよく似合っている。
「へへっ、師匠、驚かせてごめんね、黙っていた訳じゃなくてボクもつい最近思い出したんだ」
「うむ、お前の記憶が戻った事は喜ばしいと思う、影…いや、今はルメスだったな、おめでとう、本当に良かった」
「君は僕やペーギが何回も名前を与えようとしてもその申し出を受けてくれなかった、もしかすると奥底に封じられていた記憶が無意識に拒否していたのかもしれないね、何はともあれ記憶が戻って良かったよ」
国王様とペーギさんは今までルメスに記憶が無い事を心配していた、記憶を取り戻した事を心から祝っている、ルメスはいい人達に恵まれた様だ。
「ありがとうございます陛下、師匠、それでお願いがあるんですけど…」
「わかっている、お前程優秀な密偵が居なくなるのは痛手だが仕方ない事だろう」
「そうだね…それじゃあ君から今この場て影の名を取り上げる事にする、今から君の名前はルメス、これで君は何をしようがどこに行こうが自由だ」
「陛下…師匠…ありがとうございます、ボクはユイト達に付いて行きます、それがボクの使命だから」
ルメスは俺達と行動を共にする事を望んでくれた、国王様やペーギさんと引き離す事になるのは心苦しいが本人の望んだ事なら尊重しないといけない。
「なんだい2人ともそんなシケた顔をして、まるで子離れ出来ない親バカみたいじゃないかい、これが今生の別れでもないんだ、笑顔で送り出してやりなよ」
「奥様…そうですな、気持ち良くルメスを旅立たせてやるのも師としての役目、ルメス、お前にはまだまだ教えたい事が山ほどある、必ずまた戻ってくるんだぞ」
「うん、師匠に教えてもらった技でユイト達の助けになれる様に頑張ります、今まで…ありがとうございました!!」
深々と頭を下げるルメス、きっと今までの事を思い出しているのだろう、その瞳は薄っすらと涙を浮かべているようだった。