176 蘇る記憶
トーラの凶刃が影に突き刺さる、俺達は完全に油断していた、追い詰められた人間はどの様な行動に出るかわからない、クソっ、そんな基本的にな事を忘れていたなんて。
「下賤な身分でありながら儂を縛ろうなどと考えた罰だ！思い知った…グホッ！」
「黙れ！お前はそこへ寝ていろ！メリッサ、影の治療を頼む！急いでくれ！」
トーラを殴り飛ばし倒れ込んだ影へ駆け寄る、腹部に刺さった短剣が痛々しい。
「任せて、見た目程傷は深くないわ、これならきっと助ける事が出来る筈…キュアー！！」
メリッサの身体を包む光が影の身体へと伝染する、影の治療はメリッサに任せた俺は先程殴り飛ばしたトーラの元へと向かった。
「…よくもやってくれたな？もし影が命を落とす様な事になれば俺はお前を殺す、俺の考えうる一番残酷な殺し方でな」
「な…何を言っておる！？勝手に儂を殺していいのか！？この国の法がその様な私刑を許すとでも思っているのか！？」
「黙れ、やりたい放題やっていざ自分の命が危なくなれば法を頼るなんて事が出来る筈がないだろう」
俺が甘かった、こんなヤツに正当な裁きなんて必要ない、咲夜を抜いた俺はトーラへと近づく。
「ユイトさん！影ちゃんが意識を取り戻しました！」
「良かったな、とりあえずこの場でお前を殺すのは辞めといてやるよ！」
咲夜の柄を鳩尾へめり込ませるとトーラは白目を剥きその場へ崩れ落ちた、これでしばらくは意識を取り戻す事は無い。
「ふぅ…これで大丈夫、命の心配はないわ、でも影ちゃんから感じたこの感覚は…」
「ありがとうメリッサ、お前がいてくれて良かった、不思議そうな顔をして一体どうしたんだ？」
影の治療を終えたメリッサが何やら考え込んでいる。
「それはボクから説明するよ、アイタタタ…」
「こら、まだ起き上がるんじゃない、横になったままでいいから説明してくれるか？」
「ボクが何者だったのかを思い出したんだ…ボクの本当の名前はルメス、ユイトの装備している神靴ヘルメスはボクの依代だったんだ」
影の正体が神靴ヘルメスに宿った女神だって？サクヤ達と同じ存在だと云うのか？
「VRMMOの世界で何度も感じた癒しの力、メリッサの力がきっかけになってボクは全てを思い出す事が出来たんだ」
確かに神靴ヘルメスを依代にする女神は未だ俺の前に姿を見せていない、しかしルメスが本当に神靴ヘルメスの化身だと云う証拠も無い。
「あっ、さては本当かどうか疑ってるね？それじゃあボクを神靴ヘルメスに憑依させてみてよ、それでユイトにもボクの話が本当だってわかってもらえると思うからさ」
