173 敗軍の将
偽神が姿を消した後少し休憩した俺達は王城近くに広がる林を歩いていた、先程は仕方なくトーラを逃したが許した訳ではない、ヤツには今回の騒動の責任を取って貰わなくてはならない。
「間違い無いわ、足跡は城下町の方へ続いてる、そんなに遠くへは行って無いと思うけど…本当にそんな身体でトーラを捕まえる気?フラフラじゃない?」
「少し力を使い過ぎただけだから大丈夫だよ、あの場でトーラを逃したのは俺の判断だ、責任を取って捕まえないと今回の事件で命を落とした人達に申し訳が立たない」
テミスがトーラの足跡を追跡しながら俺の身体を心配する、生命の指輪が鬼神化の反動を和らげてくれるにしても今回は少し無茶をし過ぎた。
「主さま…あんまり1人で背負い込まないで、幾ら主さまが力を持っているって言っても限界が有る」
「そうよ、頑張り屋さんなのはいい事だけどその重荷を少し私達にも分けてくれたら嬉しいな」
「みんなには十分過ぎる程助けられてるさ、俺1人じゃとっくの昔に野垂れ死んでいたと思う、俺の仲間になってくれて本当にありがとう」
この世界に来てから何回も命の危機は有った、紙一重のところで何とか生き残れているのはサクヤ達やこの世界で出会った多くの人達のおかげだ。
「それにしても往生際の悪いヤツめ、自分だって逃げ切れる事が出来ないって事には気づいているだろうに」
「うんうん、ボクもそう思うよ、普段は誇りが一番大切だとか言ってカッコつけてるのに見苦しいったらありゃしない、ところでユイト大丈夫?顔色が悪いみたいだけど」
「影!?いつの間に…全く神出鬼没なヤツだな、ここで何してるんだ?」
「師匠と2人で敵の本陣を探してたんだよ、やっとそれらしい場所を見つけたと思ったらもぬけの殻でさ、大勢の足跡を追って来たらユイト達を見つけたんだ」
バツが悪そうに苦笑いをしながら影が話す、こんなナリでも優秀な密偵だ、足跡の追跡なんてお手の物なんだろう。
「さっき短い間だったけど物凄くイヤな気配を感じたんだ、それでその気配があった場所に行ったら本陣を見つけられたんだよ、もしかしてユイト達あの気配の持ち主と戦ったの?」
「戦ったと言うか…まぁ詳しい事は今度話すよ、それよりも今はトーラを捕まえなくちゃ、お前も協力してくれるか?」
「へへっ、ボクの方からお願いするよ、ユイト達が手伝ってくれるなら心強いや、師匠からはトーラを見つけたら援軍を呼ぶ様に言われてたけどユイト達がいるならそれも必要無いね」
トーラへの包囲網が着々と完成している、この戦いも大詰めだ、絶対に逃がすものか。