172 敗北
偽神が笑い声をあげる、賭けに勝った、一か八かだったがとりあえず命を奪われる心配が無くなった事に安心した俺の頬に一筋の汗が流れる。
「先程の無礼は不問にしてやろう、貴様の様な弱き者が我に挑む…こんなに楽しい事は初めてだ」
「人間も魔族もお前の玩具なんかじゃないって事を証明してやるよ、今は馬鹿にしているがいい、必ず後悔させてやる」
ふと気づくと偽神の身体の一部が光になり消え始めていた、あれだけ強靭に見えた身体も偽神の力に耐える事は出来なかった様だ、つくづく滅茶苦茶な存在、それが神なのだろうか。
「この器はそろそろ限界の様だ、弱き者よ、死に物狂いで我を楽しませてみろ、再び相間見える時を楽しみにしているぞ…」
完全に偽神が姿を消した、緊張が解け全身から力が抜けていく、鬼神化を解除した俺は王城に残して来たアイギスへと念話を送った。
『こっちはひとまず片付いたよ、そっちの様子はどうだ?助けが必要なら今から向かう』
『主さま、大丈夫だった?さっき物凄く嫌な気配を感じて心配してた、こっちは大丈夫、そっちへ行きたいから私を呼んで」
王城も方が付いた様だ、後は逃げたトーラを捕まえたら一件落着、俺はアイギスを依代である神甲アイギスへ憑依させた後にサクヤ達と一緒に具現化させた。
「ユイトくんが手も足も出ないなんて…あれが偽神…」
「規格外にも程があるわよあんな化け物、私の時詠みが通用しないなんて…」
「さっきの嫌な気配の持ち主が偽神?主さまが負けたってどう言う事?」
王城に残り侯爵軍と戦っていたアイギスへ事の顛末を話す、話を聞いたアイギスは暗い顔になり俯いてしまった。
「みんな何を暗くなってるんですか!?今はユイトさんが生き残った事を喜びましょう」
「そうね、正直あの化け物にユイトが喧嘩を売る様な事を言った時は殺されてしまうと思ったわ、上手くいったから良かったけどあんまりヒヤヒヤさせないでよ」
「あの場はアレ以外にいい方法が思いつかなかったんだ、結果オーライだ」
「身体は大丈夫?痛むところがあったら遠慮無く教えてね」
生命の指輪の効果で偽神の攻撃で受けたダメージは完全に回復している、メリッサもその事は分かっている筈だが俺の事を気遣ってくれているのだろう。
「身体は大丈夫だ、それよりもごめんな、皆の力を借りていたのに偽神に負けてしまった、情けない…」
「情けない事なんてありません、それにユイトさん言ってたじゃないですか、自分はまだ強くなれるって、次に戦うまでに強くなって次こそは偽神をやっつけましょう、人間を玩具扱いする神様の思い通りになんてさせません!」
サクヤが拳を振り上げる、その通りだ、弱気になっている場合じゃない、力を付けて偽神を倒す、その為に出来る事は片っ端から試してやる。