169 疾さ
「いくぞ…死をもって我が息子に懺悔しろ!」
「疾いっ!間に合うか!?」
獣が地を蹴り襲い掛かってくる、何とか間一髪で避ける事が出来たが首筋に鋭い痛みを感じる、痛みが走る場所を手で触れると血が垂れていた、少しでも避けるのが遅かったら今頃俺の首と胴体は離れ離れになっていただろう。
『大丈夫ですか!?鬼神化しているユイトさんに傷をつけるなんて…なんてスピード…』
「大した事はない、大丈夫だ、しかし反応するのが精一杯だった、スピードだけなら俺よりも上か…なんてヤツなんだ」
鬼神化している今の俺は全ての能力が普段の100倍になっている、しかしヤツの速さはその俺を凌駕する、常人では目で追う事も出来ないスピードだろう。
「ほう、今のを避けるか、そうでは無ければな、我が息子を直接死に追いやったのは貴様だ、ジワジワと嬲り殺しにしてくれるわ」
「お前の息子も同じ様な事を言っていたよ、流石は親子だ、エナハイ家の人間ってのは皆そんなにねちっこい性格をしているのか?嫌われるぞ?」
「我が家を愚弄するか!?いつまでもその様な軽口が叩けると思うな!」
「何も速さだけが強さじゃないって事を教えてやるよ、かかって来い」
狩猟神の耳飾りのスキル『時詠み』を発動する、少し先の未来を使用者に見せるスキルだ、数秒後ヤツは俺の頭上から襲い掛かってくる。
「お前の動きは分かってるんだよ!ここだ!」
「ツッ!?何故私の動きがわかった?もう少しで斬られるところだった、速さに任せた迂闊な攻撃は危険か、忌々しいヤツめ」
頭上から襲い掛かってくる獣へ向け咲夜を振り抜く、完全にカウンターが決まったと思ったのだが手応えは無かった、未来を観た俺の攻撃を単純な反射神経で回避したのだ。
「完全に仕留めたと思ったんだけどな、次はこちらから行かせて貰うぞ!玄武!」
ヤツが再び襲い掛かってくる、そのタイミングに合わせ玄武を放つ、しかし危険を察知したのかヤツは宙を蹴り方向転換する。
「そんな攻撃が私に当たると思ったか!?甘く見るな!」
玄武が獣を追尾するがヤツのスピードには追いつかない、やがて翻弄された玄武は地面へ当たり周囲を陥没させ消滅した。
「息子と違って警戒心が強いな、自分の力に溺れている訳じゃなさそうだ、人の知性を持った獣か…予想以上の強敵だな」
「貴様の攻撃など止まって見える、簡単に私を仕留められるなどと思うなよ」
ヤツのスピードは驚異だが時詠みの力が有れば避ける事は可能だ、しかしこちらの攻撃も当てる事が出来ない、お互いに攻めあぐねる状況になってしまった。
「持久戦になれば鬼神化している俺の方が不利か…さて、どうしたものか」