166 謎の商人
目の前で嗚咽を漏らす男性、その原因を作り出したのは俺だ、俺は彼の肉親…息子であるブーチをこの手で殺した。
「言い訳に聞こえるかもしれないがブーチをあのまま野放しにしていたらどれだけの人が命を失う事になっていたかわからない、俺は自分が正しいと思う事をしたまでだ」
「平民ごときが何人死のうが知った事か!貴様は私からブーチを奪った!返せ!私の息子を返せ!」
顔を上げたエナハイ侯爵が睨みつけてくる、憎しみと怒り、そして最愛の息子を失った悲しさを含んだ顔だ、その時何者かが天蓋の入り口から拍手をしながら入ってきた、フードを深く被っている為顔を見る事が出来ない。
「これはこれはエナハイ侯爵様、ブーチ様の事は残念でございました、しかし今の貴方は素晴らしい、静観しているつもりでしたがこの様な素晴らしい感情を目の前にみすみす実験の機会を逃すのは勿体ないと思い馳せ参じました」
どうやら声を聞くにフードの人物は男性の様だ、拍手をしながら俺の横を通りすぎると床に両手を突いたエナハイ侯爵の前に膝を折った。
「お、お前は!良くも今頃のこのこと顔を出せた物だな!貴様から譲り受けた偽核で作り上げだ魔人どもは壊滅した!無敵の兵士を作り出す事が出来ると言っていたではないか!」
「私は今エナハイ侯爵様と話をしているのです、貴方の強欲さも嫌いではありませんがサンプルとしては三流です、少し黙っていて下さいませ」
トーラ侯爵がフードの男に詰め寄る、しかし男が片手を突き出すとトーラ侯爵の身体が宙に浮き泡を吹き始めた、どうやら呼吸が出来ていない様だ。
「辞めろ!死んでしまうぞ!お前もこの連中の仲間なんだろ!?」
「やはり報告に有った通りお優しい方だ、この場で貴方と戦う事は避けたい、貴方の言う通りにいたしましょう」
男が突き出した腕を引っ込めるとトーラ侯爵は見えない力から解放され地に落ちた、咳込みながら呼吸を整えている。
「さて、話が逸れましたな、エナハイ侯爵、貴方にこれを差し上げましょう、最愛の御子息の命を奪った男へ復讐したくはありませんか?」
「これは…偽核か?私に化け物になれと言うのか?」
「化け物とは心外な、貴方は現在の状況が理解出来ていない様だ、反乱軍は魔人達を失った、城下町の混乱も収まり間もなく国王軍の主力部隊も戻ってくるでしょう、そうなれば貴方は捕らえられ運が良くても一生牢獄に幽閉、御子息の無念を晴らす機会は永遠に失われます」
男が差し出した偽核が怪しく輝く、エナハイ侯爵はその光に魅了された様に偽核へ手を伸ばした。
なんとブクマが500件を突破しました、まさかこれ程多くの方に読んで頂けるとは思っていませんでした。本当に感謝の言葉しかありません、ありがとうございますm(_ _)m