164 敵陣
偽核の崩壊の力を抜けた、もう大丈夫だ、俺は金剛を解き再び飛翔の力を使う、重量に任せて落下していた身体が再び宙を舞う。
「良かった、崩壊の力は地上まで届いていない、これで一安心だ」
『後はトーラ侯爵を捕まえればこの騒ぎも終わりですね』
「いや、魔族がまだ姿を見せていないのが気になる、気を緩めるのはまだ早い」
ここで不安になるのがブーチ達に偽核を渡した存在…恐らく魔族だろうが未だ姿を見せていない事だ、ヤツの目的は侯爵派によるクーデターを成功させる事だと思っていたのだが。
「今はこの混乱を終わらせる事に集中しよう、えーっと…敵の本陣はどこにあるんだ…」
空中で城の周辺を見渡す、先程の偽核の崩壊を見て両陣営混乱している様だ。
「あそこが怪しいな…あの手の貴族様はどんな状況でも見栄を張る生き物みたいだ」
王城近くの森に立派な天蓋が設営されている一角が有った、周りには何やら家紋が描かれた旗も立てられている。
『罠…じゃないですよね?あからさま過ぎて逆に怪しいと思うんですけど…』
「とにかくあの場所に行ってみよう、違ったら違ったでまた他を探せばいいさ」
侯爵派の本陣らしき場所の近くへ着地した俺は敵兵に見つからない様に隠れながら中心へと向かった、偽核の崩壊で混乱している様で警備は手薄だ。
「なんとか見つからずにここまで来れたな、敵は大分混乱しているみたいだ」
『そうですね…ユイトさん、あの天蓋怪しくないですか?左斜め前の天蓋です』
サクヤに言われた方を見ると一際目立つ天蓋が有った、純白の光沢がある生地に金色の刺繍が施されている、戦場に似つかわしくないにも程がある天蓋だ。
「一体何が起こっていると言うのだ!魔人共は何をしている!?状況を説明しろ」
天蓋の中か男の怒鳴り声が聞こえてきた、話し方から立場が上の人間が中にいるのは間違いないだろう。
「そこのお前!何をしている!怪しいヤツめ…角!?お前は魔人部隊の生き残りか?」
マズい、敵兵に見つかってしまった、どうする?気絶させるか?
「あぁ、言わなくてても気持ちは分かるよ、侯爵様にどやされるのが嫌で隠れていたんだろ?それにしてもお前達魔人部隊が壊滅か…一体何があったんだ?」
鬼神化した俺を魔人と勘違いしたのか、間抜けなヤツめ、しかしこれは都合が良い、こいつに侯爵の前まで案内してもらう事にしよう。
「まぁ色々とあってな、それを説明しようと帰ってきたんだが…侯爵様のところまで案内してもらえるか?」
間抜けな兵士は完全に俺を魔人と思い込んでいるようだ、付いて来いと言われ豪華な天蓋へと案内される、やはりこの中にトーラ侯爵がいるのか。