147 魔人ブーチ
「フハハ!流石にこの程度では何ともないか、そうで無くてはな、貴様だけは簡単には殺さん、じわじわと嬲り殺しにしてくれる」
「くっ…明らかに戦闘力が上がっている、間違い無く今まで闘ってきた魔族以上の強さだ」
縺れ合って町外れの公園に落下した俺達は地面に激突した衝撃で出来たクレーターの中心で再び対峙した。
「そういえば貴様は魔族を倒した事で勇名を馳せたのだったな、しかし私を魔族を超越した存在…魔人だ!」
ブーチが再び俺に突撃してきた、タイミングを計り咲夜で迎撃する、ブーチは武器を持っていない、確実にダメージを与えられる筈だ。
「なっ!?咲夜の刃を防いだ!?本当に生身か!?」
「平民の貴様には勿体無い剣だ、多少変わった形をしているが気に入った、貴様を殺した後は私がの愛剣にしてやろう、光栄に思うがいい」
驚いた事にブーチの拳は咲夜に切断される事なく競り合っていた、ブーチの全身を覆う禍々しい赤黒いオーラ、それが咲夜の刃を遮っている様だ。
「その色には見覚えがある…お前まさか偽核を使ったのか?」
「ほう、流石は魔族殺しの勇者ユイト殿、物知りな事で、確かに私は身体に偽核を埋め込んでいる」
あの色は今まで何度か見た事が有る、アイロンスティールのビズミスにパフィン村で戦った女魔族、あの時と同じだ。
「憐れなヤツめ、人間である事を辞めたのか…」
「そうだ、私は人でも魔族でもない…魔人として生まれ変わったのだ!」
競り合っていたブーチの力が強くなる、ダメだ、単純な力比べではヤツに負けてしまう、俺は弾き飛ばされる前に地を蹴り後方へと跳び退いた。
「甘い!力が強いだけじゃ俺を殺す事なんて出来ないぞ!」
空中を神靴ヘルメスで蹴り拳を突き出したままのブーチへとカウンターを繰り出す、ヤツは隙だらけだ、咲夜の切っ先がブーチへと迫る。
「確かにその通りだ、だが魔人の力が単純な腕力だけだと思うなよ?」
このまま突っ込んで行くのは危険だと狩猟神の耳飾りが俺に知らせる、ブーチは何か策を隠している様だ、飛翔の力を使い無理矢理空中でブレーキを掛ける。
「朱雀!!!これならどうだ!?」
咲夜から放たれた鳳凰の形を模した炎がブーチを襲う、最上位剣スキルの一つ朱雀、どんな策かは知らないがこれでヤツも終わりだ、朱雀の炎は一度付いたら対象を燃やし尽くすまで消える事はない、朱雀はブーチへと着弾すると激しく爆炎を巻き上げた。
「ははは!美しい技だったぞ、褒めてやろう…何だこの炎は?消えないのか?」
爆炎の中からブーチが姿を現わす、腕からはビズミスが使っていた様な触手が無数に生え全身を守っている、ブーチは炎の付いた触手を自ら切断すると何も無かった様に俺に語り掛けて来た。
「さぁ、次は私の番だな、簡単に死んでくれるなよ?」




