144 飛翔
『禍々しい気配を感じる…でもこの気配は…人間?何にしろ強敵に違いないわ、気を引き締めて行きましょう』
飛翔の力を使い王都グランズの空を飛ぶ、貴族街と城下町の境目が見えてきた頃、依代に憑依したテミスから念話が送られてきた。
「あぁ、今回の敵については色々と引っかかる事がある、それにしても酷い有様だな、城下町のあちこちから煙が上がっている」
地上を見ると城下町から貴族街へ非難する人々を確認する事が出来た、ところどころに誘導する兵士達もいる、城下町の混乱は俺が想像している以上の様だ。
『ユイト君、街の広場に人が集まっているわ、何かあるのかしら?』
「あれは…?ちょっと降りてみるか、どんな魔族だったか見た人がいるかもしれない、戦う前に敵の情報がわかれば儲けものだ」
城下町の外れにある広場を見下ろすと大勢の人間がいる事が確認出来た、逃げ遅れた人達が集まっているのだろうか、そうだとすれば避難する様に促さなければ危ない、魔族の気配はもうかなり近くに感じる事が出来る。
「何だ!?空から人間!?さっきの化け物か!?」
「俺は敵ではありません!その化け物を倒す為に来ました!武器を収めて下さい!」
「あれは…勇者様だ!俺は王城で直接勇者様を見たから顔を知っている、皆、武器を降ろせ!勇者ユイト様が救援に来て下さったんだ!」
地上に近づくと危うく兵士達に攻撃されそうになった、俺を魔族と勘違いした様だ。
「失礼しましたユイト様、てっきりあの化け物がまた襲ってきたのかと思ってしまい…申し訳ありません」
地上に降りると部隊長らしき兵士が俺に近づいて謝罪してきた、どうやら怪我人を集めている救護所の様で避難したくても重症者が多く動けなくなってしまったのだろう。
「気にしてません、それよりこの有様は…メリッサ、実体化して怪我人の手当てをしてくれ」
街に怪我人が出ていると思いメリッサを連れてきたのは正解だった、メリッサと生命の指輪を使えば本来救えなかった人を救う事が出来るはずだ。
「わかったわ、でも怪我人の数が多すぎるわね、ユイト君も手伝ってもらないかしら?」
「勿論そのつもりだ、テミスも実体化して魔族が近づいてきたら知らせてくれ、俺は手当てに集中する」
2人を実体化し怪我人が集まっている場所へ向かう、まずは重症を負っている人から手当てしていかなければ。
「誰か回復魔法を使える人間はいないか!?俺の相方を助けてやってくれ!最近結婚したばかりで嫁さんの腹の中には赤ちゃんもいるんだ!頼む!誰か!」
重症者が集まっている場所で1人の兵士が叫び声をあげていた、見ればその傍には血塗れで動けなくなっている兵士がいる、よし、あの人から手当てするとしよう。