138 魔人
「おい!そこのお前!命令だ!私を屋敷に帰せ!この様な事が許されると思っているのか!?父上に言いつけるぞ!」
「それはできません、貴方は何者かに命を狙われている可能性が非常に高い、身の安全を守る為にしばらくはこの詰所で保護する様にと国王陛下直々のご命令です」
「だから私に危害を加えたのはあのユイトとか云う平民だって言っているだろう!アイツを捕まえろ!首を刎ねてしまえ!エナハイ侯爵家が嫡男ブーチとして命じる!」
目の前の騎士は私の命令を最後まで聞かず部屋から出て行ってしまった、何故私がこの様に小汚い場所に閉じ込められ無ければいけない、元はと言えばバルメス家に居候しているあの平民のせいだ、必ずこの報いは受けて貰う、確か名をユイトとか言ったな。
「くそっ!どいつもこいつも私を馬鹿にしやがって!今回あの平民にやられてしまったのもヤツが卑怯な方法を使ったからに違いない、正々堂々と戦えば私が平民に遅れをとる事なんてないんだ!」
私は誰もいない部屋で自分に言い聞かせる様に叫んだ、その言葉が嘘だと云う事は自分が一番良く分かっている、あの男と私の実力は天と地程も離れている、若手貴族で最強と呼ばれていた自分が平民ごときに手も足も出なかった、その事実が私の苛つきを加速させた。
「素晴らしい、ブーチ様、やはり貴方は素晴らしいお方だ」
「誰だっ!?…お前は?いつの間にこの部屋に入ってきた?」
不意に名前を呼ばれ振り向くと部屋の中に良く知る人物がいた、部屋の扉には鍵がかけられ窓には格子がはめられている、いったいどこから入ってきたのだろう。
「お久しぶりですブーチ様、以後お体に変化はございませんか?」
「よくものこのこと私の前に顔を出せたものだな!貴様がよこした偽核とやらは何の役にも立たなかったぞ!おかげでこのザマだ!」
「申し訳ございません、この前ブーチ様に埋め込んだ偽核ですが少し不具合が見つかりまして…本日はその調整の為に参りました」
胡散臭いヤツめ、しかし不思議とヤツの言葉を聞いているとその言葉を信用してしまう、まるで催眠術にでも掛かっている気分だ。
「…ならばさっさと調整とやらをするがいい、貴様の言っていた魔族の力がこの程度かと落胆していたところだ」
私は上着を脱ぎ上半身裸になった、目の前の男が私の胸に手を当てると淡く紫色の光を放つ宝石が姿を現わす、他者に気づかれない様に施された魔法が解除されたのだ。
「落胆する事はございません、これで偽核本来の力を発揮できます、人と魔族の中間…仮に魔人とでもしておきましょう、ブーチ様、貴方が記念すべき最初の1人です」
男が宝石から手を離すと身体の奥から途轍も無い力が湧いて来るのを感じた、憎い、憎い、あの平民が憎い、待っていろ、必ず八つ裂きにしてやる。