136 侯爵派
「ふざけるな!あの愚王め!全く自分が国王だと云う自覚が無い!おい!誰か居ないのか!?追加の酒を持って来い!」
「トーラ殿のお気持ちは分かりますが飲み過ぎはお体に触りますぞ、しかしバルメス公爵が陛下へ青の書状を送りつけるとは…」
王都グランズの貴族街、とある館の一室で2人の男がテーブルを挟んで語り合っていた、1人はこの館の主人であるトーラ侯爵、もう1人は侯爵派のNo.2エナハイ侯爵である。
「あの小僧が青の書状を取り出した時は我が目を疑いましたぞ、しかも差出人はあの愚王の忠臣の中の忠臣バルメス公爵からではありませぬか、一体愚王にどの様な要求をしたのでしょうか?」
「分かりませんな、しかし書状を読んだ愚王の態度から余程難しい要求をされたことは間違いありますまい、エナハイ殿、これは我が侯爵派にとって千載一遇の好機とは思いませぬか?」
「確かに…愚王と公爵の仲が拗れている今ならば…」
「最近の愚王やり方は目に余るものがあります、エナハイ殿のご子息、ブーチ殿を刺客からの保護などと称して騎士団の詰所に監禁するなど言語道断、貴族に対する処置ではありますまい!」
怒りの声を上げながらトーラ侯爵がテーブルを拳で叩く、先程から消極的な態度のエナハイ侯爵とは対極的だ、余程謁見の間で恥をかかされた事でイライラしている様だ。
「ブーチの件については私も納得できておりません、刺客に狙われているにしても他にやり方がある筈です、貴族の…それも侯爵家の嫡男を小汚い騎士団詰所に閉じ込めるなど侮辱もいいところだ!」
「全くその通りですぞ!あの愚王は我らの上に立つ器ではない!愚王がバルメス家と仲違いをしている今こそが勝機、事を起こすなら今しかありませぬ」
「事を起こす…?もしや武力を持って愚王に反旗を翻すおつもりですか!?」
「反旗を翻すとは人聞きの悪い、我らで愚王の間違った政策を正すのです、貴族が貴族らしく生きてく事の出来る国にする、貴族と平民が平等などと言っているあの愚王に天誅を与えるのは我等しかいますまい」
2人の侯爵の間に緊張が走る、貴族による王家への反逆、上手くいけばこの国の頂点に立てるが失敗すればそれは即ち死を意味する。
「トーラ殿…やりましょう、我がエナハイ家はどこまでも貴方に付いていく事をお約束します」
「おおっ!エナハイ殿、決心してくれましたか!?これで憂いは無くなった!貴族による貴族の為の政治、我等の悲願を成就させましょうぞ!」
「その為には戦略が必要ですな、今の手駒以外にも金で動く兵を集めなければ…それにブーチが懇意にしていたあの怪しい商人、ヤツにも渡りをつけなければ」