130 因果応報
「誰だ!誇り高き貴族様を斬りつけているヤツは!?卑怯だぞ!姿を見せろ!」
我ながら酷い演技だ、俺はわざとらしく叫びながら無拍子を連続で放つ。
「痛い!辞めろ!私は貴族だぞ!?平民風情が私にこの様な…ガァッ!!顔に!私の顔に傷が!」
「お前は敵の攻撃が見えるのか?まさか誇り高き貴族様が自分で言った事を忘れた訳じゃないよな?何事も証拠は大切なんだろ?」
ブーチには自分がどれだけ酷い事をしたか身を持って知って貰おう、装備していた立派な鎧は砕け散り身体のあちこちから血を流している、急所を外し攻撃しているがブーチの感じている痛みはかなりの物だろう。
「証拠証拠と五月蝿い平民め!確かに攻撃は見えていないが犯人はお前以外に考えられないだろう!グハッ…」
「しかし証拠が無いだろ?証拠が無いからどうしようもないな、残念だ」
ブーチの鳩尾へ昨夜の柄をめりこませる、勿論無拍子での神速攻撃だ、ブーチは涙と鼻水だらけの情けない顔で地面に崩れ落ちた。
「あーあ、誇り高き貴族様がこんな顔しちゃって、みっとも無いったらありゃしない」
「貴様…覚えて…いろ」
「ブ!ブーチ殿!お気を確かに!」
倒れたブーチに仲間の貴族達が群がる、何が起こっているのか分からずに混乱している様子だ。
「安心しろ、ブーチは死んではいない様だ、しかしヤツも災難だったな、証拠が無いから誰が犯人か分からない」
「貴様…白々しい真似を…この様な事をしてタダで済むなどと思っているのか!?」
「だから何で俺が犯人って事になるんだ?お前達侯爵派では証拠が無ければ罪にならないって考え方なんだろ?」
俺に食って掛かったブーチの仲間が悔しそうに俺を睨みつける、ざまぁみろ。
「証拠など要らぬ!貴族が平民を裁くのに証拠など要るものか!その首打ち取ってくれるわ!」
逆上したブーチの仲間が剣を抜く、いいだろう、俺だってまだライノさんの店を燃やされた怒りは収まっていない、向こうがやる気なら全力でやらせてもらう。
「死にたいヤツから掛かって来い、ブーチを襲った犯人とは違い俺は優しくないぞ、もし俺やライノさん達に危害を加えるつもりなら殺すつもりで相手をする」
「くっ…たった1人に何ができる!?皆、あの平民を殺してしまえ!」
1人また1人と若い貴族達が剣を抜く、全員で20名程だろうか、数は多くても実力は大した事は無さそうだ。
「双方!剣を収めよ!繰り返す!剣を収めよ!」
周囲に声が響く、声の聞こえた方を見ると先程詰所に居た騎士達の姿が有った。