129 証拠
ライノ武具防具店の火が消えてゆく、その光景を眺めていた俺達へと男達が近づいて来た。
「おやおや、火災が起きてると聞き付け見物に来たがもう消えてしまってるじゃないか?興醒めだな」
「お前は…ブーチ!よくもぬけぬけと!ライノさんの店に火を付けたのはお前達だろう!?」
「貴様は!…口の利き方を知らない平民め、私達が火を付けたなんて証拠はあるのか?」
ブーチはやれやれと大袈裟なジェスチャーで嘲笑う、後ろで同じ様に笑っている男達にも見覚えが有る、この前バルメス家に押しかけて来た連中だ。
「まさか証拠も無く平民風情が貴族の私を疑った訳じゃあるまい?ほら、証拠はどうした?」
「ふざけやがって!近所の連中が火を付けた男を見たって言ってるんだ!よくも俺の店にこんな真似を!」
「そんな風に貴族の敬い方も知らないから天罰が下ったんだろう、良いザマだな、その目撃者は犯人の顔までハッキリ見たのか?どうなんだ?薄汚いドワーフめ」
悔しいが確かにブーチの言う通り今のところハッキリとした証拠は無い、国王様への糾弾といいそれが侯爵派のやり口か、証拠がないのを良い事に被害者を演じる、反吐が出る程に汚い連中め、それなら俺にも考えが有る。
「そうか…確かに証拠が無かった、謝るよ、証拠が無ければ只の言い掛かりだもんな?」
「急に気持ち悪いヤツめ、その通りだ、貴様達は私達貴族の名誉を傷つけた、本来ならこの場で首を刎ねたいところだ」
「反省してるって、ところで貴族も証拠が無ければ平民を罪には問えないんだよな?」
「誇り高き貴族が証拠も無しに平民を罪に問う事は無い、証拠の有無はそれだけ重要なのだ、自分がどれだけの無礼を働いたか理解したか?」
バカめ、調子に乗って口を滑らせたな、言質はもらった、自分達のやり方がどれ程ゲスか身を持って知るが良い。
「さぁ今回貴様達が働いた無礼の処罰だが…痛ッ!なんだ!これは…血!?いきなり斬りかかるとはどう言うつもりだ!?」
「俺が斬りかかった?何を言ってるんだ?誰か俺がブーチに斬りかったのが見えたヤツはいるか?証拠は?」
俺は目にも見えないスピードでブーチの頬を斬り即座に納刀した、神速の剣スキル『無拍子』、この場にいる者で無拍子の剣閃を追えた者は居ないだろう。
「ほら、誰も何も見えていないってさ、日頃の行いの天罰じゃないのか?」
「貴様ァァ!ふざけた真似を…ガァッ?!」
「何で俺に怒る?証拠はないだろ?」
怒り狂い抜刀したブーチの手首を無拍子で斬りつける、今の攻撃も誰にも見えていないだろう、自業自得だ、俺の怒りはまだこんなモノじゃ収まらない。




