114 危険物
「なんと…しかしこの印は我がバルメス家の物に間違いは無い…ユイト様、失礼ですがこの書状は旦那様からお受け取りになった物に間違いはございませんか?」
「はい、直接手渡しで受け取りました、城の門番にでも渡せば良いと言ってましたけど」
「ユイト様がザラキマクを出たのは20日ほど前…旦那様が王都の状況を知る前で御座いますな」
ペーギさんが目を瞑り考えこんでしまった、あの書状に何か問題があるのだろうか。
「この書状は青の書状と申しまして貴族の間では特別な意味を持つ書状で御座います、グランズ建国当初の混迷期には幾度か使用された記録が御座いますが私の知る限りここ数十年は使用された事は有りません」
「俺には普通の書状に見えます、何か特別な魔法でも掛けられているんですか?」
「物自体は色の付いた普通の書状で御座います、しかし臣下である貴族が国王陛下に対して青色の書状を送りつける事自体に意味があるのです」
なるほど儀礼的な意味があるのか、てっきり書状が魔道具か何かで出来ていると思ってしまった。
「どう言った意味があるんですか?随分驚いた様子でしたけど」
「青の書状に書かれた嘆願を聞き入れられ無い場合王に反旗を翻す覚悟がある、と云う意味で御座います」
「なっ!それってかなりヤバい事じゃないですか!?下手したら内乱が始まってしまいます!」
「左様で御座います、恐らく旦那様は面倒な手続きを飛ばし一早くユイト様が陛下に謁見出来る様にこの様な過去の遺物を持ち出したのだと思います」
「それにしても物騒過ぎます、国王様が俺の探し物に協力してくれないとクラブさんが反旗を翻すって意味ですよね、国王様が怒って本当に内乱が起きてもおかしくありません」
とんでも無い危険物を何も知らずに持っていたんだな、クラブさんが俺達を思ってくれる気持ちは嬉しいがこの書状は使わない方が良いだろう。
「それについては問題無いかと、旦那様と国王陛下は幼少からの無二の親友、君主と臣下を超えた絆で結ばれております、書状の内容を陛下が聞き入れてくれると確信が有るからこそ青の書状を持ち出したのでしょう、しかし今は状況が悪いのです」
「状況が悪い…?そうか、侯爵派ですね」
「連中に青の書状の存在を知られれば最悪の場合バルメス家が陛下の味方に付かないと勘違いし武力による蜂起を企てるやも知れません」
「迂闊に人に見せないで本当に良かったです、この手紙は処分してしまった方が良いですね、クラブさんも使わないなら燃やして捨てて欲しいと言ってました」
「処分は少しお待ち頂いてよろしいでしょうか?私めに考えが御座います…しかし私の一存では…明日にでも奥様と相談したいと思います」
「分かりました、俺達もその相談に混ぜて下さい、それにしても美味しいお酒でした、そう言えば俺の故郷にはこんなカクテルもありまして…」
その後俺はペーギさんと酒についての話で盛り上がり何杯かご馳走になった後あてがわれた寝室へと案内されたのだった。