112 カクテル
「只今戻りました…ユイト様?コレは一体何がどうなっているのでしょう…」
居間のドアを開けたペーギさんが部屋の中の惨状を見てフリーズした、明らかに動揺しているが無理もないだろう。
「お疲れ様です…皆ラッカさんの酒に付き合ってしまって…さっきまで大騒ぎしていてやっと眠ってくれたところです」
俺に寄り添うようにラッカさんとサクヤ達が眠っている、辺りには酒瓶が散乱し酷い有様だ、女性陣を介抱しようにも服がはだけてしまっていて迂闊に触れない、俺の仲間はともかくラッカさんは人妻だ。
「左様ですか…おおよその状況は把握致しました、メイドを呼んで片付けさせましょう、この光景は男性には目の毒で御座います」
ペーギさんが帰って来てくれて助かった、屋敷の人を呼ぼうにもこの惨状を目撃されると変な誤解をされそうで途方に暮れていたのだ。
「街で集めた情報についてお話ししたい事が有りますがお疲れでしたら明日にした方がよろしいでしょうか?」
「いえ、ペーギさんさえ良かったら今からでもお願いしたいです」
「かしこまりました、それでは私の部屋でお話し致します、少し人に聞かれるのは避けたい内容も御座いますので」
ペーギさんに案内された俺は屋敷の一室に通された、部屋の中は多くの書物が整理され埃の一つもない程綺麗に掃除されている、棚には高級そうな酒瓶が並べられているがペーギさんの私物だろうか。
「見苦しい部屋で申し訳ございません、よろしければ酔い覚ましの紅茶をお入れいたしましょうか?」
「いえ大丈夫です、俺は昔から酒には強いみたいでして、ペーギさんはお酒が好きなんですか?棚に色々と並んでいますけど」
「恥ずかしながら読書と酒が唯一の趣味で御座います、まだ飲み足りない様でしたら僭越ながら一杯お作りいたしましょう、最近街で流行りのカクテルと云うモノに凝っておりまして」
俺がお願いするとペーギさんは冷蔵庫の様な魔道具から氷を取り出し何本かの瓶に入った液体を混ぜ合わせてシェイクし始めた、見ていて惚れ惚れする立ち居振る舞いだ、それにしてもこの世界にもカクテルが有るなんて知らなかったな。
「お待たせ致しました、アレキサンダーと呼ばれるカクテルで御座います、お口に合えばよろしいのですが…勝手ながら私の分も作ってしまったので一献お付き合い下さいませ」
ペーギさんが2つのグラスにカクテルを注ぎその1つを俺に差し出してくれる、綺麗な乳白色で飲むのが勿体ない程に綺麗だ、口に含むとチョコレートの様な風味が優しく広がった。