106 公爵夫人
「良い食いっぷりだね!気に入ったよ、えーとサクヤちゃんって言ったかな?こんなに気持ちよく飯を平らげる娘さんを見るのはいつ以来だっただろう?いゃあ見事!私が男なら惚れちまってたよ!」
バンバンと自分の膝を叩きながらラッカさんが喜んでいる、いつのまにかバルメス邸での昼食はラッカさんとサクヤの大食い対決と化し屋敷の料理人さんが材料が無くなったと申し訳なさそうに謝って来た事により引き分けで終わった。
「御馳走様でした、とっても美味しいお昼ご飯でした、これからしばらくこんなに美味しいご飯が食べられるなんて夢の様です」
「コラ、少しは自重を覚えろ、俺達は居候なんだ、毎日毎日屋敷の備蓄が無くなるまで食うつもりか?追い出されてしまうぞ?」
サクヤが俺の小言を聞き流す様に目を細めて自分のお腹をさする、昔動物園で見たパンダの様だ。
「良いって良いって、アンタ達の滞在中の食事代は私の冒険者としての稼ぎから出しとくからさ、久々に楽しい食事が出来たお礼だ、遠慮なんかしたらタダじゃおかないよ」
楽しそうに笑うラッカさんはドレスの胸元から布袋を出すとペーギさんへ投げ渡した、なんつー所に物を入れてるんだよ?
「奥様、何度も申し上げておりますが少しで良いので公爵夫人としての自覚を持っては頂けませんか?」
「私の性分だと思って諦めておくれよ、何百年もこのノリで生きて生きて来たんだ、今更変えられないよ」
「あの、やっぱりラッカさんってエルフなんですよね?それにS級冒険者の上に公爵夫人?ちょっと混乱してきました」
自ら名乗る事は無かったがクラブさんの爵位は公爵、貴族の位では1番上の位だ、その奥さんであるラッカさんは貴族の女性の中では1番位が上になる。
「まぁ昔からガサツ過ぎてエルフの繊細さが微塵も無いって良く言われたよ、そんなガサツな私が今や公爵夫人だから世の中何がどうなるかわからないね」
「俺もエルフの友人がいますけど皆繊細ってイメージはありませんでした、パフィン村って村のエルフ達なんですけどご存知ですか?」
「パフィン村だって!?私の弟一家が住んでる村だよ!オウルってエルフさ、アイツも私と一緒でS級の冒険者なんだ」
オウルさん?確かガルとカナリーの父親でストークさんの旦那さんの名前がオウルだった筈だ、直接は会ってないが3人から色々な話を教えて貰った。
「オウルさんとは直接会ってないけどストークさんやガルとカナリーは良く知ってますよ、オウルさんは昔の仲間に誘われて旅に出たって聞いてます、実はパフィン村である事件が起こりまして…」
俺はパフィン村で起こった女魔族の襲撃をラッカさんに話した、ラッカさんはさっきまでのふざけた様子が嘘の様に俺の話に聞き入ったのだった。