103 王都グランズ
王都グランズ、この世界の政治、経済、文化の中心地であり最大の都市、ザラキマクから20日程の船旅を終えた俺達はグランズの大通りでその街並みに圧倒されていた。
「ユイトくん、私少し人混みに酔ってしまったみたい、凄い人の数ね」
「あぁ、俺の元いた世界を思いだすよ、通勤する時の駅がこんな感じだった」
嫌な事を思い出してしまった、通勤時間の電車は地獄だ、それだけで気力を削がれてしまう、今となっては懐かしい感覚だ。
「ひとまずクラブさんの別邸を探そう、王都にいる間はそこが拠点になる、ペーギさんが待っている筈だ」
「貴族様のお屋敷なんてワクワクしちゃいますね、どんなお屋敷でしょうか?」
ザラキマクを発つ数日前、俺達はクラブさんに呼び出され1人の人物を訪ねる様に言われた、クラブさんが王都にいる際に滞在する別邸を管理している人でペーギさんと言う名前らしい。
「別邸は貴族街に有るって話だったな、なんだか緊張しちゃうよ、クラブさんには悪いけどやっぱり宿を探そうか?俺には安宿の方がしっくりくる」
「あらあら、ダメよユイトくん、折角クラブさんが気を使ってくれて別邸を貸してくれたんですもの、きっともう使用人さんは準備をしてくれているわ、それにホラ」
「主さま、別邸に泊まるべき」
「そうね、折角準備してくれた使用人さん達に申し訳ないわよ、べ、別に私は貴族の館に憧れているなんて事はないんだけどね」
メリッサに言われ振り向くとアイギスとテミスが訴えかける眼差しで俺を見つめていた、女の子にとって貴族の屋敷ってのは何か特別な魅力があるのだろうか。
「わかった、俺が間違っていたよ、人の好意を無下にしちゃ悪いよな」
「その通りでございます、あなた方がユイト様御一行でお間違えありませんか?」
その時誰かが俺に話掛けて来た、人混みとはいえ気配を感じなかったぞ?狩猟神の耳飾りが反応しなかったと云う事は敵意を持っている訳ではなさそうだ。
「えっと、どちら様ですか?確かに俺の名はユイトで間違いないですが」
「これは失礼致しました、私はバルメス家に仕える執事のペーギと申します、クラブ様の命によりユイト様御一行を出迎えに参りました」
声を掛けて来た老人、ペーギさんはピシッとした燕尾服の様な服を纏っていた、深々と頭を下げて来たので慌てて俺達も頭を下げる。
「港までお出迎えにあがろうとしたのですが船が予定より早く到着した様で御座います、申し訳ありません」
「いえいえ、とんでもないです、元々街を散策しながらクラブさんの別邸を探そうとしてましたんで、それにしても凄い街ですね、初めて来たけど人の数に圧倒されてしまいました」
「初めての方は皆驚かれるみたいです、王都グランズへようこそおいで下さいました、近くへ馬車を準備しております、話の続きは馬車の中でいたしましょう、さぁこちらで御座います」