幕間 青い書状
ザラキマクの街を治める領主クラブ=バルメス=タルマイトは自室で夜遅くまで掛けて書いた手紙を入れた封筒に封をした、特殊な封筒だ、人目を惹く青い色をしている。
「まさか私が青の書状を使う日がくるとはな、てっきり昔話の中だけの存在だと思っていたよ」
一連の作業を終えてため息混じりに呟く、部屋には蜜蝋の独特な匂いが充満していた。
『親愛なる我が友へ
突然の手紙ですまない、本来ならこんな言葉使いは許されないのだろうが主君と臣下では無く友人として筆を取っている、青の書状を使っているのでこの手紙が他人の目に入る事もないだろう。
今回君に手紙を書いたのはお願いが有ったからだ、もしかしたら君も耳にしているかもしれないが1組の旅人達についての話になる。
詳しい話は伝令に持たせた別の手紙に書いてあるがザラキマクの街が魔族なる者達に襲われた、街の戦力では対処のしようが無い大軍にだ。
私も前線に立ったが正直死を覚悟していたよ、何とか住民達だけでも避難出来れば良いと考えていた。
その危機を救ってくれたのが先に書いた旅人の一行だ、名をユイトと言う、まだ20歳前後の若い男だ。
誓って嘘をついている訳では無いが万を超えるモンスターの群れの殆どを彼と仲間達で倒し街を危機から救ってくれた。
それだけでは無く後日再び街を襲おうとしていた魔族と云う2人組みと山のような巨大な怪物も彼が退治してくれたんだ、その時彼と共に街を救ってくれた存在がまた普通では無い、海竜様だ。
そうだ、お伽話に出てくるあの海竜様だ、さては私の頭がおかしくなったと思っているな?嘘と思うならザラキマクの住民や兵士達に話を聴いてみると良い、皆その姿を目撃している。
少し話が逸れたが本題だ、ユイト達は王都へと向かった、彼の旅の目的は自分の失われた装備を集める為だ、どうやらその一つが君のいる王都に有るらしい、彼が君を訪ねる事が有れば力になってあげて欲しいと思いこの書状を持たせた、どうか彼の話を聴き力になってあげてくれ。
追伸
君は隠しているつもりだろうが世界に何か危機が迫っているのは私も感じている、頼り無いと思われているのかもしれないが私だって馬鹿では無い、そのくらいお見通しだ。
私は君の臣下である前に1人の友人でありたいと願っている、子供の頃から私達が力を合わせれば出来ない事なんて何も無かっただろう?隠し事はしないで欲しい、王立学院時代の恥ずかしい渾名、黄金コンビの復活といこうじゃないか』
クラブは書状を明日着る予定の上着の内ポケットに入れ机から一枚の絵を取り出した、魔道具で描かれた物で写真の様に精密である。
「ラオン、一体世界はどうなってしまうんだ?」
クラブの見つめる絵には2人の若い男が肩を組み屈託の無い笑顔を並べていた。