102 船出
「お前達には本当に世話になった、旅がひと段落ついたらまた必ずザラキマクへ遊びに来てくれ、歓迎する」
「行ってしまうか、結局サクヤちゃん達には指一本触れられなかったのぉ、次に会うときまでに身体を鍛えておかんといけんわい」
「そんな理由で身体を鍛える老人なんて世界でもブロスタさんくらいですよ、俺達の方こそ街の皆にはお世話になりました、旅が終わったら必ずまた遊びにきます」
海竜祭から1週間後、俺達は王都への定期船へ乗る為にザラキマクの港へと来ていた、クラブさんにブロスタさん、他にも大勢の住民が見送りに集まっている。
「忘れるところだった、ユイト、王都へ着いたらこれを王城の見張りにでも渡すと良い、必ず国王陛下がお前達の力になってくれるだろう」
「青い手紙ですか?前にも似たような物をみた事があるような?」
クラブさんは胸元から一通の青い封筒に入れられた手紙を俺に手渡してきた、街のあちこちで良く見る紋章の蜜蠟で封がされてある。
「この手紙には陛下へお前達の力になって欲しいと書いてある、もし必要でなかったら燃やして捨ててくれ、我が家の家紋を押しているので拾われて悪用でもされたら大変だ」
「…ありがたく使わせてもらいます、気にかけて頂いてありがとうございます」
「礼には及ばんよ、今回の魔族の襲撃といい世界に何か悪い事が起ころうとしているに違いない、きっとお前達は世界を救う鍵となると考えている」
クラブさんは真剣な表情で俺を見つめる、この人のおかげで俺はこの世界の貴族への考えを改める事が出来た、最初に会った貴族がビズミスだった為貴族はロクでもない連中だと思っていたのだ。
「儂からも贈り物がある、これじゃ、お前さん達の旅の助けになればいいがのぉ」
「地図…にしては不思議な力を感じますが…?」
「これは辺りの現在の地形を映し出してくれる魔道具の地図じゃ、仕組みはわからんが非常に正確な地図を映し出してくれる、拡大も縮小も思いのままじゃぞ」
ザラキマク周辺の地形が描かれた地図へ意識を集中させると港周辺の建物が一軒づつ判る程にまで拡大させた地図へと変わった、これは便利だ。
「ありがとうございます、これでこの先道に迷う事はなさそうです」
「ほっほ、それは良かった、現役の時海図代わりに使っていた物じゃ、お前さん達に役立てて貰えるなら嬉しいよ」
サクヤ達も街の皆に色々と餞別の品を貰い両手が塞がっていたのでアイテムバッグへと収納する、すっかりこの街へ馴染んでしまったな。
「お客さん達!そろそろ船に乗り込んでくんな!出航するぞ!」
船員さんに促され定期船へと乗り込む、甲板から見下ろすと街の皆が手を振っているのが見えた。
「お世話になりました!皆も元気でいて下さい!」
皆へ手を振り返す、船が出航し見えなくなるまで街の皆は船を見送ってくれていた。
「ユイトくん、寂しくないの?私が街にいたのは短い間だったけど凄く寂しいわ」
隣に立つメリッサが話かけてきた、目を潤ませている、涙を堪えている様だ。
「寂しいさ、でも生きていればまた皆に会う事ができる、その為にもさっさと偽神を倒してしまわないとな、旅が終わったらまた遊びにこよう」
「なんだか今のユイトくんとっても格好いいわ、キュンと来ちゃった、ねぇ?お姉ちゃんと船室で良い事しない?」
メリッサが凄い力で俺を引きずっていく、それをサクヤ達3人が発見し何やらジャンケンで順番を決め始めた、何の順番なんですかねぇ?
「全く騒がしい人の子達よ、しかしだからこそ我が主に選ばれたのかも知れぬな、あの者達の旅に幸多からん事を」
少し離れた岩場の陰で巨大な龍が甲板での騒ぎを優しく見つめていた、波は穏やか風は追い風、旅人達を乗せた船はゆっくりと海を進んで行く。