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101 海竜祭

手に持った鱗が淡い光を放つ、海竜様が渡してくれた自らの鱗だ、手に取り強く念じる事で海竜様と念話が可能になる。


『海竜様、そろそろ準備をお願いします』


『う、うむ、しかし本当に皆を怖がらせないだろうか?悠久の時を生きて来たが人の子の前に姿を現した事は数える程しかないのだ、もちろん今回の様な事は経験が無い』


『姿を見せるだけで大丈夫です、さぁ、もうすぐ出番ですよ』


何が起こるのかと集まった人々がザワザワし始めた、今回の俺達の役目は前座の様なものだ、きっと皆度肝を抜かずぞ。


「皆もその名前は聞いた事があるだろう、遥か昔からこの街を守り続けてくれていたお方だ、海竜様、我々の前にそのお姿をお見せ下さい!」


クラブさんのスピーチに合わせて海竜様に合図を送る、住民の騒めきは更に加速する、ザラキマクの住民にとって海竜様はおとぎ話の中の存在、実在しない存在だ、無理もない。


「領主様は何を言っているんだ?海竜様だって?」


「お…おい!海の方を見ろ!」


「おおっ…なんと…なんと勇壮な…」


海の彼方からゆっくりと海竜様がその巨体で港へと近づいてくる、先程までの騒めきがぴたりと止み皆その光景に唖然としている様だ。


「人の子らよ、驚かせてしまいすまない、我は其方らが海竜と呼ぶ存在、創造神様の眷属である」


港に接近した海竜様が頭部だけを海面から覗かせ住民に語りかけた。


「海竜様、私はこの街を治めている者です、街を危機から救って頂いた事に感謝致します、今宵は海竜様への感謝の気持ちとして宴を準備させて頂きました」


海の側に作られた祭壇には海の幸や巨大な椀に並々と注がれた酒が準備されていた、海竜様への供物だ。


「海竜さま!僕たちの街を救ってくれてありがとう!」


静まり返った群衆の中から子供の声が聞こえた、見ると1人の男の子がぴょんぴょんと跳ねながら海竜様に手を振っている。


「あ、ありがとう海竜様!」


「海竜様って本当にいたのね、ありがとうございました!」


男の子の言葉が引き金となり皆がそれぞれ感謝の言葉を口にする、クラブさんはその光景を見て満足そうに海竜様へ頷いた。


「只今より海竜様を讃える祭、海竜祭を執り行う!今夜は飲み、食い、踊り明かしてくれ!」


クラブさんの言葉で今日1番の歓声がザラキマクの街を包んだ、歓声に紛れて海竜様が念話で俺に話しかけて来た。


『ユイトよ、礼を言う』


『何がですか?俺は何もしていませんよ?』


『其方が強引に我を誘ってくれたおかげで人の子らの喜ぶ顔が見れた、我はやはり人が好きだ、ユイトがいなければ未来永劫この様な機会はなかっただろう、其方には人と人を結ぶ力がある様だ』


ザラキマクで永く伝わる事になる海竜祭、年に1度、満月の夜に神と人が交わる祭、その第1回目の夜は賑やかに過ぎていった。

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