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回胴式優義記  作者: 煙爺
第二章
98/171

本能に従って

6月21日 金曜日 11時21分


ザッ…ザッ…ザッ…


一定の間隔で土煙が上がる学校のグラウンド

体操服を着た生徒が次々とゴールする中

漸く長かった7周半の道のりを終え

26名中15位でゴールを切った


カチッ…「7分14秒97!」


「はいどーも…ハァ………フゥー…」


体育教師からタイムを聞き

ゴールを切ったそのままの足で

生徒の集まる場所へと向かう


(あー……しんど……

今日は夜のランニングやらんでエエな)


そんな事を考えながら地面に座り込み

ボォーっと体育館の方を眺め

今日の予定を考えていた

そんな時

視線の端に何やら黒く動く物体を発見


(ん?…何やアレ?)


注視して見るとそれは黒い犬

赤い首輪を付けた大型犬だ

更にリードまで引きずっている


(あ……たまに見る黒いゴールデンレトリバーみたいな犬や

リード付きやからどっかのからの脱走犬か)


「し、シロ!!」


突然後ろから聞こえた叫び声に

パッと振り返るとそこにいたのは

今まさに1500mを走り終えたばかりの水村

ハァハァと息を切らせながら膝に手をつき

呆然と犬を見ている


「水村あれお前の家の犬か?」


息も絶え絶えになりながら答える水村

「そ、そや!…ッハァハァ……

たまに散歩中逃げるんや…あ、アイツ…

先生…ハァハァ…つ、捕まえんの手伝ってくれ……た、頼むわ!!」


「はぁ?まぁ…しゃーないか…

どないしたらエエねん?」


「た、助かるわ……ハァ…俺が近づいて…

名前呼んだら…ハァ…た、たぶん走って来よるから…ほ、ほんならリード捕まえてくれ」


「わかったわかった、ホナサッサとやろか

皆も気付いてるし…」


そう言って周りを見ると

当然ながら他の生徒達も犬に気が付き

ガヤガヤと騒ぎ始めていた


その様子を見て体育教師である槙田が

生徒達に注意を促す

「ほら騒ぐな!静かに座っとけ」


そう言う槙田に水村が近寄り

荒い口調で事情を話している


だが……


「神崎と2人で捕まえる言うてるやんけ

いちいち反対すんなや!面倒臭いんじゃ」


その口調に怒り出す槙田

「何やその言い方は!先生に向かって!」


その様子を見ながら呆れるアタル

(何でこんな時に言い争いしてんねん……

ほっといてちょっと犬見に行くか)

そんな2人を放置し

シロの元へと背後から駆け足で近づいて行く


(ハァーしかしデカい犬やなぁ…)


近づくにつれ、その大きさがよくわかる

毛並みの良い大きな黒い犬

するとあと30メートル程まで近づいたところでシロがこちらに気付き

時計台の根元から顔を上げた


(おっと…あんまり近付いたら逃げるかな

一旦止まって名前呼ぶか)


その場でしゃがんで名前を呼んでみる事に

「シロー…こっち」


と…そこまで呼んだところで

一気に距離を詰めて来るシロ


(うっ!…か、噛まんやろな…)


あっ言う間に目前まで迫ったかと思うと

ガバッと飛び付き、しゃがんだアタルの肩に両脚を乗せ顔を舐めて来た

「ウォフ!」


「うお!……わ、わかったから!

ちょっと待てシロ!……お前重いねん…」


堪らず振り解きそうになるのをグッと堪え

そのまま首元や頭を撫でながら

何とかリードを掴んだアタル

(よし…何とか掴んだ)

更に頭を撫でながら何とか宥めていると

徐々にシロの興奮が収まってきた

肩から脚を下ろしアタルに撫でられるシロ

すると完全に気を許したのか

ゴロンとその場に寝転び腹を出した

(シロ…お前……エエ奴なんは分かるけど…

俺と初対面やのに大丈夫か?)

少し心配になりながらも

そのまま背中や腹を撫で続けるアタル


するとそんなアタルに前方から声が掛かる

「神崎?」「あっ…シロやんけ!」


顔を上げるとそこにいたのは三田と柿本

制服姿でこちらを見ている

どうやら体育館裏から来た様だ

シロを撫でながら事情を説明するアタル

「水村の犬が脱走して学校入って来たんや

ていうかお前らこそ何やって………

あー…モーニングの帰りか」


すると嬉しそうな顔で柿本が話し出した

「おぉ!あれから2人でモグモグのモーニング取る様なってな10日で4回取れたわ!

今日で1万6千円やで!?」


三田も嬉しそうに話す

「俺はまだちょっと目押しミスするけど

それでも今日までで1万2千円や!

タバコ代も浮くし最高やで!なぁ?」


そこで念を押すアタル

「そうかそら良かったな

せやけど前言うた事は絶対守れよ

2人共それはわかってるやろな?」


それを確認する様に柿本が答えた

「わかってるって

目押し頼まれたらすぐにやるのと

朝イチの複数台取りは禁止で

他の奴に店もハズシも教えるな

ほんで他の人とか店に絶対迷惑掛けへんようにするんやろ」


キチンと守っている事を確認出来

少し安心したアタルは注意事項を付け加えた

「よっしゃほんならエエわ

特にモグモグ打ってる男前のニィちゃんには

絶対迷惑掛けたらアカンぞ

まぁ掛けた瞬間シバかれるやろから

大丈夫やけどな」


それに三田がツッコんだ

「全然大丈夫ちゃうやんけ!そんな強そうには見えんかったけどな…」


「アホか見た目で判断すんな……

あの人は俺にボクシング教えてくれた人や

俺より全然強いわ絶対迷惑掛けんなよ」


「そうなんか!?……気付けるわ」


それから暫く違う話に花が咲く3人

ある程度会話が落ち着いたところで

柿本が尋ねた

「ところでシロどないすんねん?」


「そら水村の家に戻すしか無いやろ

リードは捕まえたし後は水村に任すわ」


「せやけどこうして見たら完全に神崎の犬みたいやな…めっちゃ懐いてるやん」


完全に身体をアタルに預け

されるがままに撫でられるシロ


「ハハハそうか?俺は今までそんなに犬好きちゃうかったけどコイツは中々エエ犬や

ただ初対面やのに警戒心ゼロやったから

番犬には向かんな」


「アホか!俺は初めてテツオの家行った時

死ぬほど吠えられたわ!」


「はぁ?柿本…だからお前さっきから

そんな離れてたんか…何かしたんか?」


「いや初めて行った時からや言うてるやんけ

絶対近付けんとってくれよ!

あっ俺もう行くわ!ホナまたな」

そう言うとサッサと校舎の方へ走り去って行った柿本


「アイツそんなに犬苦手なんか?」


「いやそんな事無いと思うけどな…」



キーンコーンカーンコーン



ここで3時間目終了のチャイムが鳴った


するとそれを聞き

三田も慌てて教室へて戻る

「あっ!スマン神崎…槙田にバレるから

俺も一回教室戻るわまた後でな」


1人残されたアタル

シロを撫でながら水村を待ち続ける


(さて…どないしよかな…

しかしあの2人も毎朝学校サボってモーニング取りに行くんやから…ようやるわ……

まぁ俺も人の事言えんけど…)


犬を撫で続けながらそんな事を考えていると

漸く飼い主がこちらに走って来た

「先生!いや申し訳ない槙田のアホが……

めっちゃ懐いてるやん……」


やっと来た飼い主にリードを渡し

シロに別れの挨拶をして

その場を離れようとするアタル

「おぉ水村やっと来たか…ホナこれリードな

シロ、短い間やったけど元気でな

もう脱走したらアカンぞ」


しかし


再びシロはアタルにしがみつく

「ウォフ!…ワン!ワン!」


後ろでリードを握っていた水村が引き摺られている

「シロ、何で先生にそんな懐いてんや!

力強っ!」


そのシロの行動に

何故か嬉しくなるアタル

「オイ水村お前飼い主やろ!

おーシロ、吠えるな吠えるな

お前はエエ奴やな…

教師とか生徒には嫌われてばっかりやけど

お前には俺の良さが分かるか…よぉーし」


そう言ってシロを撫でるアタルを見て

呆れながら頼み事をする水村

「先生…犬にそんな暗い話題振らんとって…

ほんで悪いねんけど家まで付いて来てや

俺ではシロを先生から引き離せる気がせんから…」


一瞬悩んだが目の前のシロを見て

快諾する事に

「……まぁエエやろシロの為や

ホナ俺の鞄から鍵取って来てくれ

俺とシロは裏門の公園で待ってるからな」


「公園?何でや?このままネット裏から

俺の家向かった方が早いんやけど」


「まぁエエから頼んだぞ

鞄の前ポケットに入ってるからな

シロ行くぞ公園までダッシュや!」


そう言うとリードを持ち

走って公園へと向かった



ホッ…ホッ…ホッ…


一定の間隔で息を吐きながら

前を行く自転車を追い掛けるアタルとシロ

市営グラウンドを過ぎ住宅街に入っても

その速度は一向に衰えない


(こんなデカい犬と一緒に走ってたら

何か金持ちなった気分なるな

ハハハ単純なもんやで)


すると10分程で先導していた自転車が

1軒の家の前で止まった

どうやら到着した様だ


(おっ着いた…か………ホンマにこれ!?

めっちゃデカいやんけ!!)


その家を見て驚くアタル


白い壁に囲われたあまりにも広い家

玄関からは芝生の広がる大きな庭も見える

石で出来た立派な表札には水村の文字

間違いなくこの家の様だ


「シロ……お前何で脱走してん……」


「ウォフ!」


そんなアタルの呟きに

反応したのはシロだけだった


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