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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
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わらしべ長者


「ハァ…わかったわかった

行くからちょっと待ってや」


そんなアタルの面倒くさそうな態度に

更に声を荒げる父親

「待てやとコラァ!?エエから早よ来んかい!!」


荷物を部屋に置き

父親のいるリビングへと入る



肩に掛かる程の長さに伸びた下品な茶髪

細く不健康そうな身体に

ヤニの付いた黄色い歯

そして何故か少し男前な顔をした

父親が缶ビールを片手にそこにいた



(うわぁーオトンも若いわ……

相変わらず他はオール0やのに顔だけはマシやな唯一の長所やで……

俺には全く受け継がれへんかったけど…)


そんな事を思いながら答える

「何?何かあったか?掃除も洗濯もしたけど

あ…雨で部屋干しにしたから今は洗面所使われ」

とそこまで言ったところでアタルの横に

飲みかけの缶ビールが飛んで来た

「ワレコラァ!!わかっとるやろが!!!

一昨日逃げたことじゃボケ!!!

そのせいで腹立って今日負けたやんけ!!

どないしてくれんねん!!

それからお前エリカのパン全部食うたやろ

あいつが朝食うパンあらへんやんけ!!!

どないすんねんアァ!?

とりあえずそこに正座せぇ!!」


それでもアタルは座らず立ったまま答える

「逃げたんちゃうよ久しぶりにジィちゃん家行ってたんや制服と教科書の御礼も言うてなかったし」

(パン食うたのは不味かったか

でも金も置かんと出掛ける方が悪いやろ

アホか?……いやアホやったな…)


「ジィちゃん家ぃ?お前コラァ!!

またあの女のジジイんとこ行ったんか!?

関係無いジジイのとこは行くな言うとるやろ!!……て言うか

お前何でさっきから立ったままなんや?

正座や言うとるやろ!!!」


と父親が無理矢理座らせようと掴み掛かる!

…しかし


バシッ


っとその手は払い除けられ


「嫌や」


というアタルの声がした


今まででは信じられない息子の行動に

父親は何が起こったのか分からず

少し呆ける……が…顔を真っ赤にし

あまりの怒りに言葉も出ないのか

今度はいきなり殴りかかる!!


しかし再びその腕をガシッと掴まれ


「落ち着いてや」

というアタルの声


咄嗟に父親は空いた左手でアタルの腹を殴った!


ボスッ


と鈍い音がしたが

それでも立ったままの

アタルの表情に変わりは無い

(痛ったぁ!!腹に力入れてんのに結構痛いやんけクソ!でも何とか数発なら耐えれん事は無いか…)

実際には効いていたとしても…


中1とはいえ年齢の割に大柄なアタルと

165cmと大きいとは言えない体格に

痩せた身体の父親

更に酒を飲んでいるのもあってか

来ると分かっていれば数発なら耐えられるのは今なら何となく分かっていた

ただ当時

アタルには立ち向かう勇気も知識も無く

父親には息子を殴ることへの躊躇が無かった


だがもう違う


今のアタルには勇気も知識もあり

反抗する態度と殴られても怯まない息子を目の当たりにした今の父親には躊躇があった


アタルが掴んでいた父親の腕を放り投げる様に離すと体制を崩した父親がヨロついて一歩下がる

「いちいち殴らんと落ち着いて聞いてや

オトンには関係無かっても俺にとっては

ジィちゃんやから関係あるやろ

それからパン全部食ったのは悪かったわ

代わりのパン買ってきたからそれで許してや

エリカさんにも直接謝るしそんでエエやろ?」


「オマエ……ナメてんのかぁ!?

アァ!!?エエわけ無いやろが!!

土下座せぇ土下座!!」


「だから本人に直接謝るって

パン食うて怒ってんのはエリカさんなんやろ?オトンに謝っても意味無いやん

ていうかパン食うたぐらいで土下座は無いやろ、まぁ普通に謝るから大丈夫や」


「意味無いやと!?ワレコラァ!!

誰に向かってそんな口」


とその時

ガチャっと奥の部屋の扉が開き

1人の女が寝起きの不機嫌な顔で出てくる


スリムな体型に大きな胸セミロングの綺麗な茶髪に小柄な身長そして……小さな目とデカい鼻に少し厚すぎる唇と嫌味な性格

父親の彼女のエリカだ

「ちょっと何騒いでんの?煩いから寝られへんやんか…躾けやったら静かにやってや」


「あエリカさんパンすいませんでした

代わりのパン買ってきたんで許して下さい

今取ってきます」

と部屋に買った食パンを取りに行く


「はぁ?」


「待たんかい!!」


という2人の声を無視し、パンを取り戻って来たアタルはその足でエリカにパンを渡す

「これ代わりのパンですホンマにすいませんでした」

と頭を下げるアタルに

「お前何調子乗ってんねん!!

土下座や言うてるやろ!!?」

としつこい父親


しかし

「だから嫌やって言うてるやん

それにパンはオトンには関係無いやろ?

本人に謝って代わりのパンも多めに渡したからもうエエやろ」


「何なんアンタ?酒でも飲んで気分大きなってるんちゃうやろな エエ加減にしときや

痛い目みんで」

と凄むエリカに


「オマエ酒飲んだんか!?

何考えとんのじゃ中1のくせに!!

親に刃向かうは酒飲むは…

正座や正座せぇ!!根性叩き直したる!!」

と2対1になり調子に乗る父親


しかしそれでもアタルは変わらない


「いや酒なんか飲んで無いって……

勝手に決めんといてや

それから刃向かってるんちゃうで

理不尽な事には従えんって言うてるだけや」


「何が理不尽じゃボケ!!

それを刃向かういうんじゃ

身体に教えたるわ!!!」

そしてまた殴りかかる父親


だが…やはり三度腕を掴まれ


「もうエエ加減にしてや」


の声とともに強め腕ごと身体を押される

酔いのせいもあってかそのままドスンと倒れる父親


それを見て驚きのあまり渡されたパンを強く握り声も出ないエリカ


もう力では屈服させられないと悟ったのか

父親が喚き出す

「出て行けぇ!!!勘当じゃボケ!!!

オマエみたいなもんとおれるか出て行かんかい!!!!!」


しかしそれでも


それを言っても


アタルは何も変わらない

「勘当?そら無理やろ

オカンと離婚した時オトンが俺を引き取ったやないか

ほんなら無理やで20歳までは育てる義務があるんや扶養義務っちゅうやつやな

だから無理やわ」


「な、何言うとんねん!!あの女が離婚届け置いて出て行ったんやないけ!!!

それやったらあの女のとこ行けや!!!

さっさと出て行けボケ!!!」


「だから無理やって逃げておらへんのに

どうやって行くねん…それに離婚届けに判子だけ押して何も確認せんと役所に出したんはオトンやろ?親権も監護権もオトンにあるねんで?何で出て行かなアカンねん」

(まぁ内容は知らんけどオトンはどうせ何も知らんから大丈夫やろ)


「何やオマエ!?屁理屈ばっかり言いやがって…どうせあのジジイに余計な知恵つけられたんやろ!!

親の言うこと聞かんと他人の言う事ばっかり聞きやがって…エエから出で行けカス!!」


ここでようやく息を吹き返したエリカも追撃

「ホンマやわ!生意気な口ばっかりきいて…

エエか!?大人舐めとったら痛い目合うで!はよ出て行きや!」


(いや出るとこ出たら痛い目見るのは確実に自分ら2人やけどな……

さてどうやって収拾つけるか……)

その時とてもイイ考えが浮かんだ


「まぁ俺が出て行ってオトンもエリカさんも

この家居られる方法がない事もないで?」


「勿体つけんと早よ言わんかい!!!」


「エエから早よ出て行きいや!!」


そんな喚く2人にそのアイディアを発表する


「エリカさん…アンタ確かアパートまだ借りてたよなぁ?」



1枚のコインが大金とパンになり

そのパンからまた大物が得られる予感がした



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