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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
5/171

コチラを覗くアマガエル

14時41分


止む気配のない雨の中

公園にある屋根付きベンチに座り

薄い青色の紫陽花に当たる雨粒をボォ…っと

見ながらアタルは悩んでいた


(あーあ…腹減ったなぁ)


食料が無いのだ…

深刻な問題である


当時もこのような思いをする事が度々あった

稼ぐ手段の無い…しかも育ち盛りの中学生にとってこれは辛かったのをよく覚えている

こんなとき当時のアタルなら

スーパーの試食巡りをしたり

パン屋の軒先にある無料パン耳をもらったり

して凌いでいたのだが

中でも一番助かったのは友達だった西岡君のお母さんに貰う廃棄になった期限切れの弁当やパンだった

今の時代なら考えられないかもしれないが

当時の西岡君のお母さんが働くスーパーでは

廃棄になった期限切れの食料品をパートの人達で持って帰るのは普通の事で

夕方のスーパーで試食品巡りをしていると

惣菜売り場のカウンターから口パクで

裏においでと合図され、行けば必ず

「内緒やで」と言い一番大きな弁当を貰っていた

「ウチの子も身体大きいからよぉ食べんねん

神崎君も身体大きいから食べるやろ?

いつでもおいでや!たまには家遊びに来ぃや

お好み焼きご馳走したるからな

野菜もちゃんと食べや!

仕事中やから行くわ、またな神崎君!」

といつも助けてくれたのを思い出す


しかし西岡君と友達なったのは

1年の夏休み中に訪れる登校日に

体育用具室を一緒に片付けた事がキッカケだった為、今その手は使えない……更に……


(あーやってもうたぁ…今日思いっきり

松センに西岡にも雑用やらせろ!とか言うて

啖呵きってもうたやんけ……

西岡君怒ってるかな……

物静かで優しい子やったから謝ったら許してくれるかなぁ…

でも今更40のオッさんが13歳の子と友達なれんのやろか?

…まぁ登校日に謝ろか…素直に謝れるのはオッさんになった強みかな)


考えがひと段落したところで

もう1つの悩み事にもケリをつける


(ヨシ!悩んでもしゃあない!

もう決めた

とりあえずジィちゃんに貰った小遣いで袋麺でも買って自炊や

流石にこの歳で試食品巡りはキツいし

雨やからパン耳は軒先に出てないやろうしな

それが一番安上がりやろ)



雨の中

黒い傘を差しながらスーパーへ向かう

途中クラスメイトらしき女の子が反対側から歩いてくるのを発見した……が………

アタルと目が合った瞬間

走って逃げてしまう

(うわーあるある…何か制服以外で会ったら

恥ずかしなって逃げるやつ!

青春やねぇ…思春期やねぇ…)


そんな事を思いつつ歩いていると…

前から懐かしい音が聞こえてくる



チーン ジャラジャラジャラジャラ ザーッ



そして聞こえる独特な口調のアナウンス

「さぁ いらっしゃいませ いらっしゃいませ

いらっしゃいませぇ!!

本日は足元のお悪い中ぁ

当パーラーSへといらっしゃいましてぇ

マ・コ・トに ありがとうございまぁ!!

本日は雨の日デーと致しましましてぇ

全機種全台がサービス調整ぇ

サービス調整となってございまぁ!!

どちら様も粘りと根性ぉ

粘り根性を持ちましてぇ

ジャンジャンバリバリ ジャンジャンバリバリとぉ、出して出して出しまくって頂けますよう宜しくお願い申し上げまぁ!!」


テンションが一気に上がるアタル


(うわぁー懐かしぃー!!

です ます を す 抜きにして

語尾を巻き舌にするあの口調!!

エエなぁ!!正にパチンコ屋やなぁ!!)


そして遂に…………

アタルの中の悪い虫が動き出す


(ち…ちょっとだけ覗いて行こかなぁー…

う…打たへん!打たへんよ!

中1やし!金も無いし!

でも身体も元に戻られへんねんから

覗くぐらいエエやろ!タダやし!

ヨシ行こう!覗くだけや!)


誰にしたのか不明な言い訳で

自分を納得させつつ

遂にアタルは禁断の扉を開く


引くタイプの大きなガラス扉を開き

中へと入る


そこには


木の床に変な柄の丸椅子

独特の口調で煽るアナウンス

タバコの煙が充満し

パチンコ玉を弾く音と

パイプを玉が循環する音が店中に響き渡る

異空間が存在した


(うわぁー木の床やで

それにこの丸椅子!

1日座ったらケツ痛なってしゃあないやつや!懐かしいなぁ

おっと…あんまりキョロキョロしたら店員と客に目ぇ付けられるな

なるべく下向いとこ…)


店の端にあるスロットコーナーを見つけ

自然な感じを装って侵入する


と、その瞬間


左手前の台を打っていた客達が

一斉アタルを睨む!

が、すぐに何事もなかったように台に向き直り打ち始める客達

(何や!…っと一瞬思ったけど

コレも懐かしいなぁー

常連以外のヨソ者が来たらとりあえず睨むっていう謎のルールな、あったあった

さて機種は何があんのかなっと

おぉ!!店であんのは初めて見た!!

アラジンⅡや!カッコエエデザインやなぁー

汗かいた絵柄のフルーツも

薄いピンク色の7もエエ感じや

向かい合ってあるのはワイルドキャッツか

どっちも5台ずつでアラⅡは満席

ワイルドキャットはゼロか…

まぁ…間違いなく裏モンやろうしな

アラⅡのバージョンは知らんけど

ワイルドキャッツはたぶん貯金モンやろな

有名やし客ゼロやし

とりあえずここは居心地が悪いから奥行こ…

手前のアラⅡのオッちゃん顔怖すぎて無理や

その内に台と一緒にド突かれる未来が見える

すんませんでしたー)


失礼な事を思いながら奥へと進む

と…そこにあったのは


超が付く程有名なあの緑のパネル



ニューパルサー



93年に山佐から登場した山佐初の4号機

それまで登場したどのマシンよりも売れた

らしく、20万台以上のセールスを誇る

大量リーチ目搭載のモンスターマシン


(うわっ!!左奥はニューパルや

しかもMAX BET無いから初代やな

何かリール小さいような気がすんねんけど

気のせいか?

まぁエエわ…それから右奥の台は何やコレ?

ニュービックパルサーか?

いやスイカが忍者ポーズしてないな

えーと…ビッグパルサーか

知らんけど多分ニュービックパルサーの前身機やろ、スンマセンわかりません!)


どちらも10台ずつ設置され

ニューパルサーは中年の客が4人

ビッグパルサーはご老人が6人

皆楽しそうに喋りながら打っている


(いいねぇ…この雰囲気

さっきのアラⅡとはエライ違いやで

しかも結構出てるし

ニューパルなんか4人中3人箱使ってるやん

打ち方見ても全員適当に打ってるし

設定あるんちゃうのコレ?

……

でもなぁ…いくら設定あっても

金が無いから打てんのよね…

悲しいなぁ…

朝からモーニング狙うにしても3台ミスったらもう終わりやし……)


羨ましそうにコインを見つめるアタル



そんな時アタルの肩がポンポンと叩かれる


(ん?)

咄嗟のことに何も警戒せず振り向く…と


「ニィちゃん 7押してぇや頼むわ!」

と頼むオバちゃんの笑顔と

チェリー付きリーチ目を出すニューパルサー

があった


一瞬固まったアタルだったが

「あぁ エエよ」

と、快く引き受ける


コインを1枚入れ、レバーを叩く

中リールの7の下のBARを中段に押すと

ズルっとスベって7が止まった


「おっオバちゃんBIGやん、おめでとう」


「ホンマに!?ニィちゃん詳しいなぁ

ありがとう!!」


そのまま7を揃え、オバちゃんに台を渡す

「はいオバちゃん頑張ってな」


「ありがとうなニィちゃん!ちょっと待っといてや」

そう言い残し、カウンターに走るオバちゃん


(んー?どないしたんや?)

不思議に思いながらも言葉通りそこで待つ


すぐに小走りで戻って来たオバちゃん

「ハイこれ揃えてくれたお礼や!飲んで!」

と言い缶コーヒーを渡される


「うわっ!わざわざありがとうオバちゃん!」

(有り難い!金が無いから一層有り難く感じるわぁ)


オバちゃんの後ろに立ち

缶コーヒーを飲むアタル

2日振りの甘味に舌も喜ぶ


ビッグを消化しながらオバちゃんが話す

「 今日はなぁ7押せる常連のオッチャンが

帰ってしもておらへんのよ

朝イチで座った台でBARばっかり6回も当たって11時頃に怒って帰ってもうたんや

ほんで今は15時のラッキータイムやろ?

店員呼んで押して貰うにも呼びにくいし

ホンマに助かったわ」


「へぇー、そら大変やったなぁ」

(朝イチ1時間でBAR6回か

設定ありそうな台やなぁ羨ましい)


「そうやねん私の左隣に座っとってんけど

今日はアカンBARの日や!!

言うて怒っとったわ

まぁそんな日もあるわなぁ」


「ハハハBARの日か、そらしゃあないな」

そう相槌を打ち、何気なく言われたオバちゃん左隣の台を見る



アタルが固まった



左リールは上段7

右リールも上段7だ

ここまでは別にイイ

問題は中リールだ


BAR・チェリー・ベルが止まっている


だがこれでもまだチャンス目だ


一番の問題は枠下から……




アマガエルが覗いていることだ



メーカーと裏モノは一切関係ありません

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